霜まよふ空にしをれし雁がねの帰るつばさに春雨ぞ降る(藤原定家)

いちいち説明を加えると野暮になるというのが新古今の名歌であるが、仕方なく解説をさせていただこう。歌は帰雁のワンシーンである。ここで雁はすでに故郷へ向け飛び立っている。空は凍てつき、さながら雲に霜が置いたように行く先は見えない。だのに雁よ! 数千キロ先の彼方故郷シベリアへ向けて立つ雁よ、お前は何を思う。翼を持たぬ私には想像だにできない。そのしおれた翼には春雨が降りしきる、冷たく凍れる春雨が。
絵画的また物語的といわれるのが新古今の歌だが、まさにこれがその白眉たる一首だ。

(日めくりめく一首)

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