行く先を惜しみし春の明日よりは来にし方にもなりぬべきかな(凡河内躬恒)

多くの数寄者にとって、春の暮れは年の暮れより重みがあったのだろう。今日の歌をみてもまたそれを強く信じる。『今までその行方を惜しんだ春、明日になれば昔の思い出となってしまうだろう』。解釈の余地はいくらもありそうだが、私には春の境が生死の境となるような鎮痛の思いをこの一首に感じる。私は詠み人は凡河内躬恒、美しきレトリックの名手も春尽きる弥生のつごもり(晦日)には正述心緒、ただ心のまま思ひを述べることしかできない。

(日めくりめく一首)

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