花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに(小野小町)

昨日の友則に続き、百人一首にも採られた桜歌である。この歌で和歌の魅力に憑りつかれた人も多いかもしれない、なぜなら私がその一人なのだ。和歌は「詞」と「心」によって構成される、そしてこのふたつがバランスしてこそ歌は「いい歌」となりうるが、小町の歌はこれが見事に成功している。まず「詞」であるが「ふる(降る)、(経る)」と「ながめ(長雨)、(眺め)」の掛詞、二句切れの倒置、「うつりけりな」という美しい響きと、冴えに冴えている。なおかつ「心」は複雑な技巧の裏で、待ち偲んだあわれな女の詠嘆が存分に描かれている。まさに揺るぎようのないパーフェクトな歌、和歌という文芸の魅力が存分に発揮され、それを感じられる歌である。これに対抗しうるのは、おそらく定家の百人一首歌※くらいであろう。

※「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや 藻塩の身もこがれつつ」(藤原定家)

(日めくりめく一首)

和歌の型(基礎)を学び、詠んでみよう!

代表的な古典作品に学び、一人ひとりが伝統的「和歌」を詠めるようになることを目標とした「歌塾」開催中!

季刊誌「和歌文芸」
令和六年冬号(Amazonにて販売中)