花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで(後鳥羽院宮内卿)

宮内卿はわずか20歳にして亡くなったと言われる夭折の歌人、残る歌も少ないがそれでも勅撰集に四十三首採られた名手だ。彼女の歌風は唯一無二といった感じで、独特の感性が際立っている。表現多彩な現代短歌と比較してしまえばさほどでもないかもしれないが、鎌倉初期の八代集しか知らない当時の歌人からしたら異才であったことだろう。
比良の山とは滋賀県の琵琶湖西岸にある山、そこからの吹き下ろしの風が花を散らす。それは湖上を漕ぐ船の跡が見えるまで。題は「湖上花」、通例だと湖面に映る花を詠むところだが彼女はそうしなかった。はるか遠く、行方も知らぬ小舟のたゆたいに春の終わりを重ねたのだ。

(日めくりめく一首)

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