橘の匂ふあたりのうたたねは夢もむかしの袖の香ぞする(俊成卿女)

昔の人を思い出すという花橘の香り、嗅いだことがあるだろうか? 梅や菖蒲もそうであろう、確かにリアルな自然を経験していた方が歌の共感力は高まると思う。しかしそんなもんなくたって、いやかえってないほうが歌に陶酔できる場合がある、それが今日の歌だ。『花橘の匂いが漂う近くでうたた寝をすると、夢の中までも昔の袖の香りがする』。実感を遥かに超越して、濃厚さらに濃厚なサイケデリックの世界だ。言うまでもないが、夢の中では昔の恋人と永遠の逢瀬が遂げられている。この手の妄想において、俊成卿女の右に出るものはまずいない。

(日めくりめく一首)

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