松が根に衣かた敷きよもすがら眺むる月を妹見るらむか(藤原顕季)

『松の根に衣の片袖を敷いて一晩中眺める月を、彼女も見ているだろうか?』。当時、男女が共寝をする際には互いの衣の袖を敷き交わしてその上に寝ていた。あえて説明すると「衣片敷き」とは、どちらか一人が衣を敷いて相手を待っている状態である。今日の歌では男女は離れていながらも、同じ月を見るといういわば疑似デートにほのかな幸福を感じるという趣向だ。ちなみに三代集などではこのような「松の根」はほとんど見えず、万葉集にいくつかあるのみ。詠み人の顕季は六条藤家の祖、彼らが万葉集に精通していたことが伺える一首だ。

(日めくりめく一首)

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