思ひいづるときはの山の岩躑躅いはねばこそあれ恋しきものを(よみ人知らず)

花の季節はやはり春なのか、和歌の夏は鳥(ホトトギス)や雨にほとんど占められて、かろうじて卯の花や花橘が詠まれるくらい。存在は極めて薄い。しかし我々が夏に連想する躑躅(つつじ)や紫陽花は詠まれないのかというと、そんなことはない。ないのだが、ほとんど少なくてまるで無視されているようだ。そんなわけで今日の歌は古今集から四季ではなく恋部からかろうじて見つけてきた。
『思い出す時は常盤山の岩躑躅のように、口に出して言わないけれど恋しいのです』。岩がつくがちゃんと躑躅が詠まれている。内容は初めしころの忍ぶ恋なのだがすっきりしない。それは「ときは」に「常盤」と「時は」、「いは」に「岩」と「言は」を掛けた技巧優先の歌であるからだ。であるからしてこの躑躅はどうしても岩のあたりに咲く岩躑躅でなければならない。

(日めくりめく一首)

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