山里の春の夕暮れきてみれば入相の鐘に花ぞ散りける(能因法師)

能因といえば西行に先んじた旅の歌人、「古今著聞集」にある白河の関の逸話で有名だ。修行のため陸奥へ行った、と嘘をついて詠んだ歌※。それがバレないように色を黒く塗った(日焼けのつもり)というやつだ。なかなかチャーミングなお人である。しかし百人一首歌が野暮※なためか、例によって存在感は低い。しかしどうだろう、今日の歌を見て印象が変わったのではないだろうか? 孤独な春の山里に響く入相の鐘、それに合わせるかのように散る桜。派手なテクニックがないぶん、かえって心に響く。本当にいい歌とはこういう歌なのかもしれない。もしこれに共感できなければ、それは育った環境を恨むしかない。

※「都をば霞とともに立ちしかど 秋風ぞ吹く白河の関」(能因法師)
※「嵐吹くみ室の山のもみぢばは 竜田の川の錦なりけり」(能因法師)

(日めくりめく一首)

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