山ざくら千々に心の砕くるは散る花ごとにそふにやあるらん(大江匡房)

大江匡房は小倉百人一首で権中納言匡房の名で知られる。それに採られた桜歌※は、趣向が平凡でまったく記憶に残らない。比べて今日の歌は面白い。『桜が散る。心が千々に砕けるほどつらいのは、散る花に心が寄り添っているからだろうか』ときた。嘆きつつも湿っぽさが少ないのは、「そふにやあるらん」の柔らかさにあるのだろう。千載集らしい趣向と情趣がうまく調和した歌だ。
ところで月を見て「千々に」物思いした大江千里は匡房の祖先にあたる。大江家は代々有力な学者を輩出し、なかでも匡房は後三条天皇の近臣として活躍した。またこの家は歌道にも通じ匡衡、嘉言らを輩出、女流だと和泉式部、赤染衛門もその筋だ。

※「高砂の尾の上の桜咲きにけり外山の霞たたずもあらなむ」(大江匡房)

(日めくりめく一首)

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