大空をわれもながめて彦星の妻待つ夜さへひとりかも寝む(紀貫之)

「ひとりかも寝む」。この馴染みやすくていかにも和歌らしいフレーズは、実のところある時期に起こった一過性の流行りに過ぎない。その時期というのが新古今であって、立役者は定家とみてほぼ間違いない。今日の歌も詠み人は貫之であるが、採られたのは新古今である。調べてみると新古今には「ひとりかも寝む」で結ばれる歌が四首あった、一見すると微小だがこれ以前の勅撰集にほとんど見えなかったことを考慮するとちょとした流行といえなくもない。眼目は百人一首である、人麻呂※1、良経※2と稀代の歌人がこれを採られている、彼らの真骨頂でないにも関わらずだ。これはひとえに撰者たる定家のこだわりといえよう。その真意は端的に、独り寝の抒情を恋しのぶ女ではなく、隠遁の侘しい男に寄せたのだ。

※1「あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかもねむ」(柿本人麻呂)
※2「きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかもねむ」(藤原良経)

(日めくりめく一首)

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