大空は梅の匂いにかすみつつ曇りもはてぬ春の夜の月(藤原定家)

定家といえば夜、ことに春のそれがいい。昨日ご紹介した千里の「朧月夜」、この響きだけで艶なる情景を思い描けるのは日本人の幸福だ。これに定家の才知の筆が加わるとこうなる。『あたりの空一面が梅の匂いに霞んでいる。曇りきらない春の夜の月が浮かんでいる』。誠の景色かそれとも心象のそれか? いずれもかまわない。作者はただひたすら痺れているのだ、脳髄の芯から梅の匂いに。当代の守旧派はこのような歌に恐れを抱いた、むべなるかな。あまりにサイケデリックである。

(日めくりめく一首)

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