吹き乱れる柞が原を見渡せば色なき風も紅葉しにけり(賀茂成保)

柞は「ははそ」と読む、今ではほとんど耳にしないがコナラやクヌギなど里山にありふれた落葉樹のことだ。「色なき風」は定家、水無瀬恋十五首歌合の調べ※1を想起させるが、情景をなぞれば貫之のそれ※2だと思い正す。だとした場合、風は何色に染まったのだろう? 紅葉と一般的に表せば「赤」であろうが、その実万葉集では多く「黄葉」に「もみじ」の訓を当てた。赤か黄色か、そんなもんどっちでもいいとのご意見もあろうが、こんな些末が気になってならないのが我ら和歌マニアの性。ちなみに黄色から赤への変化には白楽天の詩が関係しているらしい※3。

※1「白妙の袖の別れに露おちて身にしむ色の秋風ぞ吹く」(藤原定家)
※2「桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける」(紀貫之)
※3「林間煖酒焼紅葉 石上題詩掃緑苔」(白楽天)

(日めくりめく一首)

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