ホトトギスそのかみ山の旅枕ほのかたらひし空ぞ忘れぬ(式子内親王)

式子内親王の代表歌だ。「そのかみ山」は以前も説明したが「そのかみ(昔)」と「其神山」を掛ける、そしてこの山の下に鎮座するのが賀茂神社である。言うまでもなく式子が斎院として、多感な十代を駆け抜けた場所だ。詞書にも「 いつき(斎)の昔を思ひ出でて」とあり、ノスタルジーは明白。ホトトギスも歌語の設定などという理知はなく、純粋に思い出を鮮やかに呼び覚ます風景の一つに過ぎない。真っ青な大空、ホトトギスの声、ありありと思い出る友との語らい。「ほの」の二文字がこの瞬間をいっそう宝物にして、結句「忘れぬ」の強さから幸福感が滲み出る。年を重ねれば誰もが失う青春の輝き。しかしそれは胸の奥底に確かに残っているのだ。 この歌に触れたなら、あなたも同じ感動を得ることだろう。

(日めくりめく一首)

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