ひとりぬる山鳥の尾のしだり尾に霜置きまよふ床の月影(藤原定家)

新古今的シュルレアリスムの極点がこの歌かもしれない。作家活動のクライマックスを迎えた定家が「千五百番歌合」に詠進し、新古今に採られた一首である。『つがいと離れて独り寝る山鳥の長くしだれる尾に、霜が置いているように床に月影が射している』。言うまでもなく、人麻呂の百人一首歌※の本歌取りである。このふたつの最大の違いは上下句を繋ぐ助詞にある。人麻呂は「の」として序詞で連絡でするが、定家は「に」として一句に統合する、つまり定家のは序詞(比喩)としてはならない。「霜」を媒介とした「孤独」のモンタージュ、配合という手法による新しい表象を見るのだ。この言葉の芸術の危うさは、ひとえに偉大なる名歌なしには成立しないということだ。

※「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」(柿本人麻呂)
(日めくりめく一首)

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