はるの野にすみれつみにと来しわれぞ野をなつかしみひと夜ねにける(山部赤人)

古今集と新古今集には300年の間隔があるが、そこに文化違いはほとんど見られない。しかし古今集と150年の間隔しかない万葉集との間には、人間が違うんじゃないかと思うほどの隔たりが見られる場合がある。その主な現象が言葉であったり、歌に好まれる花の種類だったりする。その一例が今回の「すみれ」だ。歌は単純で、すみれ摘みに来た野が懐かしくて寝ちまった、というまさに牧歌的万葉歌である。しかしこのすみれ、古今集以後の勅撰集ではほとんど詠まれない。こういうのは他にもある、「あぢさゐ(あじさい)」をはじめ「ゆり」「つばき」「あさがほ」「もも」などだ。古今集では花を厳選した、つまり美の基準を設けたのだ。古今集には文化があり、万葉集にはそれがなかったのである。

(日めくりめく一首)

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