あはれてふことを数多にやらじとや春に遅れてひとりさくらむ(紀利貞)

立夏を過ぎて季節は変わったはず、だった。しかし昨日までの更衣数首をみて分かるように、いつまでも湿っぽく「春」を詠みこんで花を忘れられないでいる。極め付きは今日の歌だ。『感嘆を独占しようと、ひとつこの桜は遅れて咲いたのだろうか?』。時季外れに遅れて咲いた桜、それを目にした驚きと感動をしつこく歌う。しかし夏に春を詠む後ろめたさがあったのだろう、「咲くらむ」に掛詞で「桜」を間接的に詠みこんでいる。なんともいやらしいやり口ではないか! そろそろ気持ちをからっと夏に切り替えてほしいものだ。

(日めくりめく一首)

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