あと絶えていくへもかすめふかくわが世をうぢやまの奥のふもとに(式子内親王)

強烈な歌である。春の「霞(かすみ)」はその奥に隠れる花を見たいから、といった理由で、そうそうに薄くなるのを期待するのが和歌の常套であるが、この歌では「幾重(いくへ)もかすめ」、つまりもっと濃くなってほしいと命じている。してその奥に隠れるのは自分なのである。春を歌ってはいるが、自閉的でダークな印象がはなはだしい。また初句の「あと絶えて」が切迫感を強くし、構成的にも練られている。さすが式子内親王といった感である。式子は百人一首の「玉の緒よ絶えなば絶えね」でも知られるが、ともに題詠であったにせよ特出した個性である。こんな歌を送られて返せる男がいるとしたら、やはり定家になるのだろうか?

(日めくりめく一首)

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