【百人一首の物語】三十四番「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに」(藤原興風)

三十四番「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに」(藤原興風) 松、なかでも「高砂の松」が吉事の象徴であるとは、誰もが知るところでしょう。私の世代ではすでにネタでしかありませんが、結婚式の祝言として「高砂や~」と...

「令和三年歌会始」眞子内親王の歌(烏瓜の色)を読み解く

去る3月26日、コロナウイルスの影響で延期となっていた「歌会始の儀」が行われました。地味な伝統行事が一転、国民の注目を集めるようになったのはもちろん昨年詠まれた眞子内親王の歌が発端です。 「望月に月の兎が棲まふかと思ふ心...

【百人一首の物語】三十三番「ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ」(紀友則)

三十三番「ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ」(紀友則) この歌は国語の教科書にも採用されていて、ご存知の方も多いのではないでしょうか。穏やかな春のひかりの中で、桜花だけが慌ただしく散ってゆく情景、静かなる...

【百人一首の物語】三十二番「山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり」(春道列樹)

三十二番「山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり」(春道列樹) 取ってつけたような風雅であるが、嫌味がない。それは名前のせいだろうか、“春道列樹(はるみちのつらき)”とは歌詠みが宿命というべき美しい名だ。し...

【百人一首の物語】三十一番「朝ぼらけ有明の月とみるまでに吉野の里にふれる白雪」(坂上是則)

三十一番「朝ぼらけ有明の月とみるまでに吉野の里にふれる白雪」(坂上是則) 三十一番は坂上是則、その名でわかるとおりかの征夷大将軍「坂上田村麻呂」の子孫にあたります。田村麻呂とえば平安時代初期の蝦夷征討において多大な功績を...

【百人一首の物語】三十番「有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかり憂きものはなし」(壬生忠岑)

三十番「有明のつれなく見えし別れよりあかつきばかり憂きものはなし」(壬生忠岑) 壬生忠岑は古今撰者の一人。四十一番忠見の父として知られるが、その実彼の出生はベールに包まれており官位も不明、貫之(従五位上)、躬恒(六位程度...

【百人一首の物語】二十九番「心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花」(凡河内躬恒)

二十九番「心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花」(凡河内躬恒) ついに古今集撰者がお目見え、凡河内躬恒だ。古今の撰者はあと三人、三十番の壬生忠岑と三十三番の紀友則そしてご存知三十五番の紀貫之であるが、とりわ...

【百人一首の物語】二十八番「山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば」(源宗于朝臣)

二十八番「山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば」(源宗于朝臣) 「貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候…」※1とは正岡子規による歴史的文句だが、なにも古今集における“下手な歌よみ”は貫之に限ら...

【百人一首の物語】二十七番「みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ」(中納言兼輔)

二十七番「みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ」(中納言兼輔) 古典などというとなにやら深淵広大なる山脈を思わせるが、存外知ってしまえば近所の裏山のごとく身近な存在に変わるだろう。この中納言兼輔(藤原兼輔)...

【百人一首の物語】二十六番「小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ」(貞信公)

二十六番「小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ」(貞信公) 平安時代とはまさに表向き平安であって、その前半、歴史に残る武力紛争は平将門、藤原純友の乱くらいであった。この時代の権力はもっぱら謀略によって定ま...

【百人一首の物語】二十五番「名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな」(三条右大臣)

二十五番「名にしおはば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな」(三条右大臣) 「王朝の幕開けと伝説歌人」、「失意に乱れる純血の貴公子」と続いた王朝物語はここらで新たな章を開く、それはさしずめ「聖帝の輝き」とでも言う...

【百人一首の物語】二十四番「このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに」(菅家)

二十四番「このたびは幣もとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに」(菅家) 大江千里に続いて学者がご登場、菅家こと菅原道真である。ところで大江の血筋は栄えて後には大江匡房(百人一首では権中納言匡房)なる異才も生んだ、和泉式部...

【百人一首の物語】二十三番「月みれば千々にものこそ悲しけれ我が身ひとつの秋にはあらねど」(大江千里)

二十三番「月みれば千々にものこそ悲しけれ我が身ひとつの秋にはあらねど」(大江千里) 念のため断っておくが千里は「ちさと」と発する。間違って「せんり」などと読めば格好悪いふられ方をされてしまうやもしれんのでご注意いただきた...

【百人一首の物語】二十二番「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ」(文屋康秀)

二十二番「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ」(文屋康秀) 「和歌」というと大抵の人間が貴族の雅な恋愛や美しい四季への真心のみで仕上がっているかのように捉えている。ちまたの指南書がそのように喧伝している...