和歌・歌道と幸福論

突然ですがみなさん、幸せですか?

143の国や地域を対象にした、国連の「2024年 世界幸福度レポート」によると、日本人の幸福度は前回より4つ順位を下げて51位でした。ちなみにこれはG7諸国の中で最下位です。また年齢別に見ると60歳以上では36位、30歳未満では73位と、若い世代ほど満足度が低い傾向が見られました。このデータを見る限り、日本人の幸福感は低下しているようですが、みなさんはいかがでしょう。

「幸福」の低さには、さまざまな要因が考えられますが、私はその主たる要因として「孤独」が大きな影を落としていると思います。地域や会社、家族そして友人やパートナーとのつながりが薄れた結果、人々は孤立感や排除感を感じ、「幸福」から遠ざかってしまったです。決定的な根拠はないものの、多くの人にとって納得のいく理由だと思いませんか?
ちなみに「国立社会保障・人口問題研究所」によると、全世帯に占める「1人暮らしの世帯」の割合は2020年の38%から増加を続け、2050年には44.3%と6.3ポイント増える見通しですから、日本人の「幸福」はいっそう低下しそうです。

ただ、この「孤独」は、皮肉にもわたしたちが望んだものでした。それは「民主主義社会」に生きる人間が追求する「自由」です。表現の自由、選択の自由、信仰の自由…これらの自由の理想を求め続け、見事それらを達成したのですが、逆にその全てから孤立してしまったのです。

アリストテレスは、「人間は社会的動物である」と述べました。すなわち人間は、共同体の中で良く生きることを目指し、それが達成されることで幸福感を得られるのです。しかし、現代では「自由」を追求する中で、社会という概念を軽んじ、もはや「自分だけが良ければいい」というエゴイストだらけになってしまった。

ここでひとつの疑問は、「自由」の達成が「孤独」を生み、「孤独」が「不幸」をもたらすのであれば、他の民主主義国家の人々も同じように幸福度が低下するのではないか? しかし単純にそうはなっておらず、日本だけがG7の中でもずば抜けて低く下位に甘んじている、これはなぜなか。思うに、他の国にあって日本にないものがある。それが「(政治的)信条」や「宗教」といった「アイデンティティー」です。

戦中の国家神道の否定、揺り戻しと言うべきでしょうか。日本人はアイデンティティーを嫌悪し、育てないまま豊さだけを追求してきました。
わたしは人生において、なによりも「物語」が必要だと考えます。「なぜ生まれたのか」、「なぜ生きるのか」、「幸福とは何か」…これら答えのない、形而上学的な問いに答える「物語」… それが哲学や宗教です。わたしたち人間は、形而上の問題に答えを見出さねば生きていけないほど、脳ばかりが発達した動物なのです。
他国も希薄となったとはいえ、まだまだ哲学や宗教は生きています。しかし戦後の日本人はこれらをきれいに捨て去ってしまい、アイデンティティなきまま今を迎えてしまった。それでも「エコノミックアニマル万歳」と、経済すなわち「お金」を追っていれば幸福を得られる時代があった。しかしそれも終焉を迎え、日本が経済面でも衰退をはじめた今となっては、、残されたのは「虚無」だけでしょう。

では日本人に哲学・宗教を与えれば幸福度が回復するのか? 明確にNOでしょう。日本人は「無宗教」を標榜し、仏教や神道でさえ、文化としては受け入れても、信心なんてのはこれっぽちも持ち合わせていません。今さら「極楽浄土」、「南無阿弥陀仏」などと講釈を垂れて、だれが素直に聞き入れてくれるでしょうか(真宗僧侶のわたしが言うのもなんですが)。

では、日本人はこのまま不幸を生きるしかないのか。いえ、日本人を孤独から救済するうってつけの「物語」があります。それが「道」です。茶道や剣道などの「道」は、哲学・宗教ではありませんが、神仏ならぬ先人の教えを尊び、これを素直に受け入れ日常に活かし、生き方の指針にさえする。日本人の心の支えに十分役立つことでしょう。

で、ここまで長々と書いてきて、わたしがみなさまに一番伝えたいこと、それは日本には道の中の道、「歌道」があるということです。おそらく「道」という世界観において、最も古く、広く愛された道が「歌道」です。それは神世から始まり、広く庶民にまで行き渡りました。しかし明治以降、歌が文学としてのみ理解されるようになってからはその道が絶えてしまいました。なんという明治歌人の浅はかさ…
わたしは「歌道」を再び興し、この道をあらためて整えています。なにより「歌道」は「和歌」です。人々を繋ぐ「和」となり、心を「和らげ」ます。孤独を深める人間に、うってつけの「道」ではありませんか。

さてみなさん、私たちと一緒に和歌を詠み、歌道を歩みましょう。

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(書き手:内田圓学)

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