【百人一首の物語】四十八番「風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふ頃かな」(源重之)

四十八番「風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふ頃かな」(源重之)

源重之は風景歌の達者です。その詠みぶりは平安の山部赤人といって過言でなく、この時代にはめずらしく大らかで親しみやすい景色を歌に多く残しました。官人としては不遇であったとは思いますが、どちらかというと世俗には興味が薄かったようで、九州の藤原佐理や陸奥の藤原実方といった風流人に身を寄せ、文人としての世を満喫した人でした。

百人一首歌は冷泉院が春宮のときに奉った百首歌のうちのひとつ(ちなみに重之の「重之百首」は、以後隆盛する「百首歌」の最古の例だそうです)。題は「恋」で、見てのとおり失恋、それも大失恋の歌ですね、これは。先に紹介したように、重之は風景歌を得意としていました、そんな人が失恋をうたったらどうなるか? 「岩打つ波が砕けるように、私の心もバラバラです…」、どうでしょう、ちょっと大げさすぎやしませんかね? わたしなんぞはどうしても「東映」のオープニングを思い出してしまいます。それでいうと、三番赤人の富士山は「松竹」ですね、どうでもいい話ですが、、

もちろん言いたいことはわかります、よっぽど打ちひしがれたのです。しかし! 先の四十六番、曽禰好忠の抜群の「序詞」を知ってしまっては、重之のそれはあんまりピンとこないんですよね。まあでもオッサンの私が共感できないだけで、受け取る側の女子からしたらグッとくる、のかなぁ。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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