【百人一首の物語】七十三番「高砂の尾の上の桜さきにけり外山の霞たたずもあらなん」(前権中納言匡房)

七十三番「高砂の尾の上の桜さきにけり外山の霞たたずもあらなん」(前権中納言匡房) 

「遠くの山に桜が咲いた、近くの山の霞よどうか立たないでおくれ」。
遠景の山の桜と近景の霞を対照させたいわゆる長高い歌、和歌らしい模範的な春の情景が歌われています。詠み人は大江匡房(まさふさ)、当時一流の文章博士と聞けば、なるほどその人らしい品性のある歌であります。

ちなみに大江家といえば、二十三番の千里をはじめ代々優れた学者を輩出し、菅原道真の失脚後はなおのこと朝廷で重用されてきた家柄。当時の大学と言えば「文章道」つまり漢詩文の内容や歴史の研究が盛んでしたから、その文章博士(教官)たる任を務めた大江家からは、しぜん詩歌に優れた人材が生まれました。和泉式部や赤染衛門なんて方々もじつはこの筋に連なる人なのですが、なかでも匡房は別格で、後三条、白河、堀河と三代の天皇の信頼を得、一族の歴史上最高の中納言まで昇りました。

さて、歌にみえる「高砂」というと、どうしても三十四番のように「高砂の松」を連想しませんか? しかしこの歌でははたんに“砂が高く積もった山”でしかありません。本来「外山」の対義語は「深山」「奥山」となるのですが、それをあえて「高砂」としたのは格調を狙ってのことでしょう。悪いとは言いませんが、インテリらしい退屈な歌でもあります。

(書き手:和歌DJうっちー)

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