ML玉葉集 冬部(神無月)

和歌所では、ML(メーリングリスト)で詠歌の交流を行なっています。
花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠んでいます。
参加・退会は自由です、どうぞお気軽にご参加ください。
→「歌詠みメーリングリスト

今月の三首

「黒髪は風にまかせて梳づらむ 夜行バスゆくコスモスの道」
「サクサクサク音に驚き飛び立てる 落ち葉に紛る雀の子らや」
「ふるさとのはつ雁がねのとほければ おもひまさりて秋は過ぐらむ」
「月残る彼誰時に落ち葉掃く 息は薄っすら白くなりけり」

今月の詠歌一覧

食卓の柿に射す陽の眩しさに 大風未明去れりとは知る
戯れに襖のなかより取り出せる あらはれわたる日々の営み
継ぎて来しむかし祖父母の知れるもの なしとてこれをいかに知らむや
継ぎてこしかたちはつひに滅ぶとも 継ぎて興さんやまとたましひ
水茎のあとは絶えしと誓ひてし 小さき聲を忘れ給ふな
風往けどまた來たるらし濡れ布巾 皺伸ばしつつ 晴れ間を探し
竿竹の乾く間もなき小伝馬の ガラスに映す空の切れ端
皆人の眠りを覚ます迷惑なり いさかひはすな千島黒潮
雁がねはとつ國かけてゆきかへば ふたつながらのふるさとならむ
暮れてなほあかき都会の藍空に 高きを競う秋の白雲
浮雲の千切れて急ぐ秋空に いでてはけぬる星の瞬き
我天文に暗し 秋は宵の明星歟
茶を煎りて待つこと永き秋ならん 昔茶摘みの娘の語り
竹林の漣近く微睡めば 光に揺れる秋の野の花
霞ヶ浦臨む芝生白雲青空に浮かぶ 永き旅寝をばおもひだしつ
あの雲を追ひかけてゐた少年は 草に枕す四十路なりけり
波なければ沖にゆきかふ白き帆も ねぶたげにみゆ是好日也
君愛でし人参ジュース ペルシャ國 百度飲めや馬の餞けせむ
ブリガンガ アザンのつつむ夕暮れに 消えゆく日々を船出せんかな
サクサクサク落ち葉踏敷く武蔵野は 赤に黄色に蒔絵のやうに
サクサクサク今は咲かぬに武蔵野は 唐紅に蒔絵のさうに
サクサクサク歩みをとどめ仰ぎ見ば あな武蔵野に松虫の聲
征く人のゆき果てし校庭に音絶へて 木の葉舞ふなり黄にかがやきて
今はた征く人の波見えず 黄葉散り敷きて人は無し
秋風におもふ佳人は昔日の 少壮幾許ぞ 時を如何せん
サクサクサク落ち葉に紛る雀の子 お馬も通るぞ我も通るぞ
ナルードの香油に烟る想ひ人 シェヘラザードに問ひてみまほし
沖つ方遠眼鏡にてながむれば みやこ鳥なす水平線
はまちどり遊ぶ干潟のさざ波に 日々を洗ひて風に吹かれむ
はるばると富士の高嶺を越え来れば これや嬉しや千鳥の水邊
おほかたはゆきはてにける鈍色の ひとなきこじにうをのにほへる
この世をばしりすぐしたる空だにも かげる雲居のゆくへは知らず
御社にあり戸はきけど蟋蟀 主なき杜のあはれまされる
べったらの市に列なす紙提灯 小雨の音にペダル推しゆく
地球の出我が身は露も変はらねば 月は昔のままに愛でよかし
林間に人やあらんと湯気たてば 龍田の姫の湯浴みするかな
雨降れば相合寄れる傘の下 散らす言葉も錦なるらん
横糸に千種をひきて竪糸は 銀霖で抜く錦秋顕也
彼方よりオーボエ来たりぬ寄り添ひて クラリネットにファゴットつづき
夜半かけて山から里に降りくれば さやけき里に秋櫻のはな
白銀の是新たなる朝ゆけば のきばのきばのちぐさの輝き
江戸小紋広げたるかな群鴨の 遊ぶ水面に縞をかさねて
水底に閑かにゆれる羊雲 満ちゆく秋の夢をはむかな
幼子の手紙をたくす羊雲 ひとつふたつと夢のなか空
黒髪は風にまかせて梳づらむ 夜行バスゆくコスモスの道
野辺あらば秋雨染める 錦秋の 色のありかを求めつつゆかん
奥山も君がもみずるごとくには 深きものにはあらざなるかな
風あらばひとのこころも運びきて 秋空もみずる錦とはなれ
雨を聴き寒更尽きて門開けば 黄に輝ける落葉の朝
菊盡きて秋の枯れ野は音絶えん 都の大路に人まさりゆく
秋の日に黄がちになれる葉桜の 散れるをおしむひともあらじや
雲盡きぬ風に随ふ秋櫻の 数をば知らず一片の月
空仰ぎ千々にものこそ思へども 雲追ふ雲がただゆくばかり
変はらじと思へどこれぞ男心 明けては変はる錦をいかにせむ
松虫に寂しさまさる秋の雨 音もかき消さむわが涙かな
頬撫でる風の寒きに見上ぐれば 雁の群れ行く秋の夕暮
吹く風や季(とき)にあらねどつばくろと 雁は行き交う空のかよひじ
サクサクサク音に驚き飛び立てる 落ち葉に紛る雀の子らや
千代八千代願いを込めし菊枕 香を分かつは君ならずや
菊の香も巡る月影染むる葉も 慰めかねつ憂う我が身を
何処にと君を求めんゆめうつつ 髪にとどむる ナルドの香や
潮風も師走せわしくいく声も セリの声留む 鈍(にび)の柱は
雲ならで月をや霞むわが涙 霞を増すやきりぎりすの声(ね)
雨にしばし足止む赤提灯 えびすは招く赤き顔して
わがときと支度をせんや龍田姫 秋の花葉に残るおしろひ
林間に酒あたためて秋の夜は 龍田の君を待ちて暮らさん
相傘で添ふ身にあればわが袖を 濡らす雨をも嬉しの露や 
露ごとに草木を染むる秋時雨 いずこに宿す錦の色を
わがうちの想ひは深む山の葉が 雨を重ねてもみづごとくに
風吹けば光さすあり雨やあり 人を映すは秋の空かな
暮れてなほ花の命は光増し 永遠の記憶をおもひいださめ
宵闇に映ゆるはしろき花の香 帳(とばり)を越えん想ひを抱きて
秋空に雲重なるや幾重にも 寒にそなうる衣にも見ゆ
いつまでも日が沈まない青いそら 心を寄せる花は夢の中
夕暮れの窓の内には萩の花 一人眺める霧雨の街
ナルードは神秘な香りラベンダー いつもいつぞや君を想わん
久方の月夜を仰ぎ武蔵野の 秋の色種虫の相方
ためらいよやみはふかまりよもふけて いまはいずこかいざよいのつき
まんげつのひとりぬるよのわびしさは いかにひさしきものとかはしる
見上げると闇夜を照らす半月が 今日も始発事務所に行く
仮想して綺麗に揺れるあなたの目 ケルトの国の新嘗祭か
襖絵の枝ゆ目移り鶯ぬけ
風伯の野分に案山子野ずゑまで ドロシーの家はカンザスへ
ひとはみなわが少年をさがす旅 老へど若かり秋の海棠
ペルシアの月の馭者らに迎へられ 輝夜姫ゆくはたて煌めく
弱さうにただよふのみの秋桜の おもひはしづか根をおろすかな
お茶の間にいつかのひと日兆しつつ さだまさしけふ歌ふ秋桜
獅子王も臆病なれる竜巻は いつしか過ぎて虹の彼方へ
秋ふけてほそやぐ風にうちかけぬ 月もやどらぬ袖となりせば
さをしかのこゑをたよりとさまよへば たまづさつたふ秋萩の風
霧雨のさやに明けぬるあしたには 光りあふぎぬ秋のたかむな
袖笠にふりしく雨をとどめては なみだにまがふ秋の夕ぐれ
明五つ朝餉ととのへあふぎ見る 辰の空には有明の月
ふるさとのはつ雁がねのとほければ おもひまさりて秋は過ぐらむ
雁がねの羽うちかはす秋なれば ゆきかふ空にこころ晴れまし
たづねいる紫の野や武蔵野の さそひてうつる待宵の月
七十八十(ななそやそ)老の数ほどかがやきて やがて百歳(ももとせ)若人ならむ
ひともとの秋桜かざす黒髪や さやぐ風さへそとなでゆかむ
かをりたつ夜にただよへる夜光花 ゑひてながめむ白きおもかげ
ゑひさめて棕櫚のあしたにまどろめば かぐはしきかな橙の庭
夕暮れにおもかげ見えて懐かしく 触れれば萩は玉と散りぬる
秋風に枯れた柳は見る人に 冬が育む春を教えん
とこしへに君をおもへば寝ねかてぬ 菊の枕に頰よすれど未だ
月の影秋の愁いを何処へと 我地の影の憂いに沈む
ことなべてこの世ひとつに負う空の 雲の陰りは何思すらむ
いつのよもよわきこころにすむつきは さびしかなしをうたによむ
空見上げ雲になぞった夢模様 今水底に散りて漂う
君が詠む大和の歌に錦あり 目には見えねど心彩る
松風に散るも叶わずうなだれて なぜ我の名を秋桜という
秋暮れて命の色がかわるとき 秋のさくらは種と咲く
秋の日の見渡す丘で話し聞く 秋桜ですか和歌でしょうか
たよたよと風に吹かれし秋桜 群がりてなお花の一輪
異国より田楽にも似た秋祭り 南瓜提灯月夜をわらう
月残る彼誰時に落ち葉掃く 息は薄っすら白くなりけり
われおもふ言葉の端に宿るもの 如何なるときも和歌は忘れじ
一夜にし七度も変わる秋の空 例えられるは男心と
錦ほど輝くものに定めあり うつろへばこそ 愛あたらしけれ
ひさかたの月の秋風むさしのの 秋の色種虫の相方
来る秋の流れる雲の早けれど 月を掬えば花も纏わん
秋風や寂しさ増さる人の身に 着添ふ衣は十重(とへ)となるらむ
アザーンの調べ遙けき夕風に ひらり今めく乙女らの黒
雀かな鳴鶍かな鶍かな 紛れ紅葉よ廔鳴き給へ
まれに聴く転め鳴く鳴く独楽 鶍の嘴か周章つ暮れ時
何処より渡り来ぬらん鳴交喙 聴かせ賜へし今日こその秋
哭きに嘆けいさ枯れる迄哭きに嘆け 冬の来ぬ間に交嘴鳥哭け
呼ぶ聲に応へ曇らむまた時雨 涼しさ深き道ノ奥かな
降れば降れいさ散る前に降れば降れ 未だ染め足りぬ秋過ぎぬ間に
交嘴鳥寒く鳴きしゆ秋野辺の 向こうは晴れて降る時雨かな
交喙鳴く秋のみぎりの夕日影 色もたまらず聲や哀しな
秋雨は晴れて夜中の月に鳴く 哀れその鳥哀れその鳥
泣くに泣く何時ぞ今かと泣くに泣く 味気なき秋冬待つなへに
今のみの業にはあらず古の 聴けど飽かさぬ音にさへ鳴きし
秋空は嵐の後に明けてこそ ゐざ野に行かな萩の花見に
何処ぞと萩が香探し時雨れ月 立枝尋ねて荻の聲聞く
分けて入る野辺の秋され萩の咲く 盛りを知らす七種の花
秋問へば匂ひよろしき萩なるは 花のかほばせ気色涼しき
年うちの秋や嬉しき有明に 今朝に微笑む花の顔
秋風の吹きと吹きぬる宮城野の 野守の草も色変はりけり
此の丘の人に知られぬ初見草 咲きて散るらむ秋の宓かに
花妻の問ひに応へるさを鹿の 聲は手向けの秋の一花
誘はるゝ鳥の音もなき咲く萩の 冬に先立つ風の便りは
とく咲くもあやにくなれや次に次ぐ 嵐に惜しき一花の萩
半ばゆく秋と散らすは萩の花 末は差し次ぐ生ゑ芽なりぬる
聞きつくせ小男鹿の鳴く萩乃月 何か急かるゝ冬や近づく
徒らに冬もうつせぬ色なれば 今の此の花秋よ変はらず
軒近き萩が香ながら珠簾 隙もとめ入る秋の夕風
終夜に窓に掛かるは庭見草 手枕かれて花をみるかな
この頃の散るも白萩色映す 暁露に咲きにけるかも
秋されの朝な朝なに時雨れば 下葉は草の露も染むらむ
露零す音の頻りに切なくて 咲きてありやと問ひし君はも
かはす枝も秋埜々枯れて萩の散る 此の一もとに冬や来ぬらむ
咲きつくせ過ぎにし宵の秋の月 天が下散る宮城野ノ萩
影もなき漫ろ虚しき秋されや 花の盛りに逢はましものを
秋されにこと色染めし明みます 紅葉に優る実葛これ
秋山の紅葉極まり衰ふるも 美男葛は朱を帯び来ぬ
枯るゝ葉の狹間に延へる實蔓 山に様見む名にも似むかも
核葛時有ればこそ秋をきて 生ふる日蔭に寂しさ見する
真葛陽の色あたる時雨月 うつろふからに濃くなりにけり
次々に木ノ葉降りつゝ色重ぬ なほ秋慕ふ狭根葛かな
佐奈葛下風通ひ契りせば 玉響る紅は摂れぬ色かな
紅葉葉を見ながら枯れる秋されに 衣色目く左名蔓見ゆ
いやさやに円らかなるは實蔓 露を誘ふ蔓の細道
秋の葉の乱るともなきさやく音に 心は然ても実蔓揺る
蔓触る汝が指先の薄紅み 此の小春日に初冬を知る
紅葉せぬ慰めもなき秋山に 暫し躊躇ひ散らずもあらなむ
何思ふ何をか嘆く秋の野に 君より他に紅葉摘ませじ
一通り時雨尽きぬと見し山は 斑目に薄くゐと呆け呆けし
帰り鳴く鴉あなにく山里の 今一入の淋しさもがな
別れ路に飛びゆく雲の帰り来る 染めぬ時雨ぞなほ頼まれぬ
紅葉なく人も家路へ帰りなば 山淋しくやならむとすらむ
終日にはらりはらりと散る葉とも 影や少なき音の幽けき
十三夜梢飾りし秋乃月 紅葉も薄き色にやありけん
今ならで写し心をひと盛り 見へて楽しき秋月の色
十五夜や猶予ふ吾の行く先を 暫し曇りて夜を知らせよ
山越へて入りぬと見へし白河の 時雨て掛かる白き叢雲
吾妻より秋にありせば知らずとも 関ノ白河尋ね来なまし
白河や梢を見てぞ慰さむる 吾妻の山に通ふ心を
影清き月の鑑と見ゆるかな 長閑に澄める白河の水
古のなほ恋しきは秋なれど 底に沈みし月よ白河
何事を秋の形見に思はまし 今日白河の月見ざりせば
影をのみ秋の名残りと留め置き 数ならぬ夜の思ひ出にせむ
秋雨の来る日来る日も暮れ濡らし まだ落ち止まぬ軒の珠水
秋時雨今に散るならゐとせめて 今宵の月よ深き朱染め
言ノ葉も秋の落ち葉となりぬれば 秋野辺にゐで言ノ風詠ふ
秋野辺に吹きて見付ける音探し 解けてぞ遊ふ今日の愉しさ
濃き薄き移ろふ色の千種なる 山の紅葉も暫し盛るか
二並ぶ秋見ましゆは筑波山 昔の人も来けむ彼之日に
彩や照らす常陸のまほら委曲かに とどみ満ち足り豊かあれかし
遠き代に有りけむ秋は年もまた 色と散りにし君が行く方と
風に聴く身をたな知りて山涛の 思ひ積みこし遠くな行きそ
十月三十日向かへる道奥の 絶えず通はむ山は秋なる
空風に雲立ち戻りまた時雨 濡れ通るとも吾れ帰らめや
窓辺より宜しき秋の気色せば 枕の辺り忘れかねつも
人知らぬ朝の秋野にかたまけぬ 千草の多磨の白露の月
朝ぼらけ吹く音涼しき秋風に 心凄しくゐてふ散るなり
衣手の涼しくなりぬさ夜更けて 身に染む頃の秋風ぞ吹く
時雨れつゝ心の棲まぬ吹き寄せは 今朝うら悲し秋を過ぐ風
枝に漏る影の少なき此の庭で 心をつくる今朝の秋風
朝霧の影に隠れし秋山は 日降つなへに消ぬべく思ほゆ
神無月影は西より顕れて 日の暮れ易き雀色時
色尽きて紅葉帆を張るそろそろに 黄昏れもろき梢之湊
紅葉葉の舟の装ひその儘に 風の涛立ちゐと憐れなり
吹く風に霞を分けてひと群の 霧の海征く秋の葉の舟
夕日影揉まれ揉まれて落ち葉なる 秋の果て吹く此の荒らしかな
世の憂さを空にも知るや神な月 侘ぶ秋の散る音や儚し
秋暮れの身に染む程の吹き寄せは 理り過ぎて藻屑となりぬ
ただに枯れただに散りしは音も無く 静かに落つる秋の限りに
神奈月音も枯れたる吹き寄せに 今一汐の寂しさもがな
色枯れて秋の心は空なれば 惜しげなく吹き冬を越すかな
吾妻よりゐ行き巡れる道奥へ 夢路も紅き一夜秋見に
澄み透る西日となりて宵の口 月星高く空や果てなき
靜闇に一つ葉の舞ふ月末に 吹き心地良き風笛を聴く
送られつ送りつ果ての年ノ瀬へ 色を捨てつゝ一日一日を

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