ML玉葉集 冬部(師走)

和歌所では、ML(メーリングリスト)で詠歌の交流を行なっています。
花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠んでいます。
参加・退会は自由です、どうぞお気軽にご参加ください。
→「歌詠みメーリングリスト

今月のピックアップ三首

「歳の果てに天と海とを仰ぎみれば 平かに成る何時の代々にも」
「あはてゝものこす日数に限りあり ゆっくりゆっくり春はゆっくり」
「何と無く山の尾の辺も白むれば 冬も吾妻に立ち始めけり」

今月の詠歌一覧

我夢に君や眠るや常盤なる 松陰やすき銀河の最果て
風騒ぎ土曜の夜に人は無し 黄葉吹き上げて歳を追ひゆく
まだゆかぬ夏をおもへり年の瀬に へしこつきつゝ語りあふかな
時ならぬ実とこそ聞けばたわゝなる 君が心は恒に頼も
時じくの実にあらまほし浮世には こぞににるべき年もなければ
同じくは浮世の盃を飲み干して 時じくの君に言傳てをせん
高屋の面を連ねし小路抜けて 渉る空風車軸の光
東京にこの十二月に雨が降る 往人とゞめえず是を如何にせむ
雪雲に花ぞさき沿う里の 冬紅白かざし歳をむかへん
年の瀬のこの人波をわきてゆかん 白金まとふ冬のものゝふ
もち花をかざす人らの花笑みに 慌ててきたる春は盛りなり
あはてゝものこす日数に限りあり ゆっくりゆっくり春はゆっくり
浅茅生に熊もこもれりほぐれゆく 春見の炬燵里の白雪
朝日照る六曲一双の硝子窓 堅く絞りて冬を研ぎゆかん
エイと詠みアイと哀しみ歌よむは アンドロイドの夢にやあるらむ
虚ろにも見える瞳の瞬きに 億光年の孤独は宿り
ハルや問ふ我懐かしのまほろばを 爾の夢に映して見せよ
蝋梅の雪山風を透き通す 甘き花色時を映して
天つ国風や届けむ花の香 浮かぶは添いて眺むる吾が子
時の香を映して透る蝋梅は 甘きを宿し眠り居るかな
乘り換へるワンマン車掌の訛声 小雪舞ふ駅舎で饂飩を啜り
乘り換へた途端に歸へる言葉尻 お國言葉に緩む頬かな
風花の煌く暮れの午後の空 代は隔つとも春をわすれじ
雪匂ふ孤驛に立てる候ならん 歸客迎へる里の初花
けふよりは光充ちゆく野を思はむ 氷雨慈しむなつかれの草
まことかと驚き見つれば雪原に 魅惑のスウィーツ栃の紅姫
空風の騒ぐ最中を駆けてゆく 君十八の關は越えなむ
凝る霜も明けの時雨にゆるみゆけば 春をまちつゝ筆を擱く哉
日のひかりうけ常盤木にたわわなる 冬枯れに映ゆときじくの実
雪雲る里の屋(おく)にて咲きほこる 春待ちかねつ紅白の花
わが推しは冬の夜空ぞ南天に 白金(しろかね)布を纏う武士(もののふ)
みつけたり君の番ぞと落ち葉踏む 音を聞きつけ秋は微笑む
百代の旅の伴(とも)なり白銀(しろかね)の 海に流るる黄金(こがね)の文は
滋賀県大津市・蔵元平井商店 浅茅生(あさじを)熊蟄穴(くまあなにこもる)
有明の月やは映す影ひとつ ただ霜だけが下りて輝き
天(あま)つ国風や届けむ花の香 浮かぶは添いて眺むる吾が子
ふるさとに向かう列車に似たりける 訛りたよりにのぼる魚らは
過客や何を頼りに帰り来む 水の清きか雪の白きか
今日(けふ)こそと思ひわたれる人枯れは かくと思ひし冬日のレール
此の花の色も香をも知るなれば 笑みを咲かつ待つや春べを
枯れ果てし野に冬萌えの葉ひとひら 陽(ひ)に起こされし乃東(なつかれくさ)や
にぎはへる屋(おく)のいとしき雪の野に 早や春告げる栃の紅姫
木枯らしにあわせ冬告ぐ声やする 落ち葉踏みしむ片角の鹿
舞い落ちる十二月冬雨が 冷たく響く冬は悲しき
姿なき歌であれども詠み合えば 言葉の間に笑顔満ちたる
六曲の屏風ほどある窓ごしに 射す陽は白く明けの雪かと
一叢の芒のごとし雲間より 射す陽も枯れて冬ぞさびしき
平成の内に耕し田に撒くは 言の葉の幸一陽来復
山深く冬とも春とも知らぬ枝に 梅をおもひて雪咲き香る
藤衣井筒にもたれ思ひだす 乃東の生ずるごとく
歳くれて三又の角枝落ちけらば 春には四又誰がおしへむ
新しき年数え待つ可惜夜は 願い枕に朝を迎えき
霜天の月残りたる空になる すずかげの実は声も枯れ果て
いにしえの石蕗の花時雨雲 もの寂しげなだんまりの花
月十二節季候たし百八つ 旧年去りて新年来たり
六出花五穀の精となりせなば 風に頼みて夕日やらばや
時過ぐる流れも速き夕雲に 移ろふ影の色惜しむかな
風寒み紅葉拾へる右手には 色暖かき秋の夕暮
錦成す秋の去るまでひとときの 木の間やさしく鳥の鳴くなり
彩れる鶍の声は風枯れの 空しき庭の心知るらむ
秋去らば早みて瀬にも留めあへず 錦を末に待つにかなしも
遠き日に茜の空の暮るゝまで 集めて赤き秋の山苞
あくがれて露振り分けて野に狩し 遠き遊びの実葛かな
水底は儚き世にぞ安らへる 眺めるのみの澄めるつきかげ
いつかまた花の後には緑見る 名残の枝に春を待つかな
思ひやる錦流るる来し方を 清みて後にしもあらばこそ
白河の淀まぬ末を思ひいて 流れ越すとも逢はんとぞ思ふ
風の丘は暮れ行く時に切なくも 空を仰ぎて揺れる秋桜
秋桜の春の色して秋贈る 冬の兆しの風の行く先
澄み冴ゆる夜空に舟の漕ぎ渡る 綺羅の砂子と雲の間に間に
世を忘れ遠き果てなる月見れば 昔も心の変はらぬものを
夕されば薄き明かりの暮れ果てて 遠くに冴ゆる月宿るらむ
風寒み色なほ薄く暮れる日に 眺む光のあはれなるかな
時を越え言の枝葉の照らされて 同じ光の望月のもと
黄葉敷く冬の明かりの浅き道に 目映き頃の光とどめて
歳の果てに天と海とを仰ぎみれば 平かに成る何時の代々にも
歌に寄す代々の景色の花姿 眺む心の美しかれとや
思へども届かぬ声を空に浮けて 凍れる音の霜と散るらむ
天の下の冬に心の乾き見て 雲を雫に集む夜かな
忘れ路の廃れし軌の行く宛ても 雪に泥みて春を待つかな
雲のなき澄める空には月冴えて 光を留めて庭に置くかな
去ることも打ちつるまゝに 暮れゆけば鐘の響の天に消えゆく
年の暮れに天と海とを仰ぎ見れば 平らかに成る 何時の代々にも
ひさかたの光溢るる大海に 平らかに成る果て望むかな
かねのねをのこすけさにはさむそらに はるのけしきはとほさかりけり
はなのゑんあるがあとにもただよへる ありかまみえぬすぎさりしこよ
北の海に流氷渡り春までの 凍風安み獅子の多鬣
鳥の音を纏ふ袈裟には桐灰の 「はる」の季節は遠ざかりけり
寒すぎる今宵の夜は氷雨かな 指でたどるは曇りガラスを
大津市は舞う雪ばかり君が里 見上げる空は女心か
吐く息が白く拡がる冬の朝 見渡す景色屏風の如し
風吹かば香り漂ふ梅の花 せきすいはいまきわむべからず
茜さす荒野の果に日は沈む 妙なるしらべ天より響く
橘を花瓶の窓の内に置き 浅き眠りよ深くあらしめよ
降り積もる初雪に夢重ねては 雪踏み分けて君に会んとは
むすびこしのちのあしたに霜ふらば ひとがこころのかれそむとかは
ゑひさそふたちばなの香をしのびては すぎさりしひのほむらたちたる
雲なびく冬になりせばありあけの 月さへかくるから風ぞ吹く
廃線の冷たきレール冬日照り ただ森閑とゆく末もなし
残照の消失点に進むなる 信濃追分冬枯れの鉄路
紫の匂へる衣を茎にたつ 乃東の西行のゑみ
雪の野にいでたつ君の赤き頬 もろ手包みてさすりてしがな
時雨ふる里の守り人いかあらむ 遠く去りての思ふ師走に
里山に霜をく菊の風に耐へ 道ゆくわれに頷きてあり
明日をまつ除夜の神々松のゑの 風の音にもこゑ請け侍る
橘を守(も)る人ありとや聞こえなん 夢の玉藻も人も非時香果
惜敗と期末を越えて初時雨 のなか立ちふる梣の竿
かくれんぼ雪も氷雨も夜闇の 残る落ち葉の色にまぎれて
まさきくや花にやすらふ日のもとに 春待つ梅の芽の動きつつ
徒然と空ぞ見らるゝ末つ月 全く好き日に冬は来ぬらむ
立つ冬も思ひ出づれば小春なり 風寒くとも日には得がたし
神帰月日影も巡る北南 雲も時雨ぬこの頃の空
かへり染む紅葉ありやと訪ねみて 小春長閑けき中津辺ノ宮
春なのか昨日の秋は先やらで 秋の桜に春桜まで
桜咲く秋か冬かも忽な 春に似たりと誰か言ひけむ
香りなき潮の風色飽かなくに 緑も若む小春なりけり
晴るゝ江の春の光りか菊の咲く 小春に見るや金糸雀の色
さらす葉の緑半ばに秋送り 朽ち葉の色も冬の蔭なる
小春日や今日ぞ冬立つ昼凪ぎに 翳む小舟の沖へ漕ぐ見ゆ
立冬の名は隠れねど束に吹く 肌に寒しき申や恵乃島
今朝の冬陽だまり安き春の日に 咲きし桜は秋の忘れか
秋桜や穏しく揺るゝ日中過ぎ 陽の力なく晴れにけらしも
久方の影薄きこと寂れたる 二心なき秋桜一つ
虚ろわで暫し夢とも秋さくら 変へりもぞする午後の風吹く
陽が照れり目借り時なる小春日の 咲みし秋桜夢に見るかな
夢にみる風の歌詠聴くたびに 心あるにも心なきにも
移ろひの幾多の蔭に隠れども また咲き撓る秋の櫻よ
うち陽射す見し日の秋の桜咲く 還りすむ世に在りと告げこそ
秋野辺の足らぬ想ひに花はまた 遠き都を然のみ嘆きそ
末つ月久しくなりぬ夢の跡 咲きて散るゝに幾世経ぬらむ
秋咲良夕づく陽色映しかり 刹那に冷めて冬に入る哉
うんてい?やだかっこ悪い冷たそう 壊れるきっと高いし無理
楽しいの楽しいのかな名まえ変 うんてい何て変な名まえ
うんていか何でうんてい何でかな.. 誰がつけたのまか不思議だよ
不思議だな可笑しな気持ちおもしろい 触ってみるかどうしようもう
これはしご形へんだよ山の骨? 洗濯干しにしか見えないし
ずっといる何でうんてい気になるな こっち見ないで笑っちゃうよ
もういいや遊ぼうんてい誰もいないし うーんよよぅよわーもうむり
いたたたもう離さないで痛いでしょ 手が冷たいよ真っ赤っかだよ
帰ろかな次離したら帰るから それでもいいのよくないでしょ?
ほら行くよよし今度こそよよ行けそ わ滑る滑るあ落ちる落ちる
やれやれともうまた離すうんていめ おなか出ちゃった風邪引いちゃう
ぽかぽかだあれ何でかな笑っちゃう うんてい何てさ変な名まえ
なるほどね雲のはしごかおもしろい 雲のはしごね渡ってみるか、
耳に為る遊具と話すひとり子の 雲の梯子の可笑し楽しき
この頃の冬の日数の秋ならで 遅れ紅葉も色付きにけり
時しもあれ盛り紅葉を思へこそ 年の色見に入りやしなまし
分けて行く小春日和の道奥は 入りて明るき谷影の色
入りつ日の色は闌打ち延へて 映ゑる川面に萌ゆる紅葉葉
濃染の紅葉彼方此方火の燃ゆる 此の感けるに息を呑むかな
紅に紅緑は緑黄は黄 葉分けの風も賑はしきかな
ひらひらと風に頻舞ふ紅は 降り敷く紅葉散らまく惜しも
先泥む浮き葉流るゝ霧ふりの 岩間た広み淀み藍なす
青淀に色取り取りの紅葉葉は 追ひ風よふ意水遊び見ゆ
緩やかに滝の岩つぼゐや広み 潺ぐ聲に耳傾けぬ
八千種の色憐れなる山峡に 紅葉揺すりて風吹き渡る
道奥の紅葉極まる森中に 時に思わぬ雁鳴く聞こゆ
眺むれば哭きこそ渡る一群は 羽根を連ねて雁が音のゆく
徒然と空ぞ浮き舟雁金は 名残り惜しくも雲隠りなむ
手繰へやる聲は寂しく如何にして 儚き空にもて離るらむ
此の年の木々の彩り遅けれど 下葉の影ぞ冬を知りける
冬暮れに殘り少なき聲聴かば 惜しむ心の尽きせざるらむ
色付きの今日を見限る凋む月 影に消ぬればその夜降りけり
小春日も今日のみ暮れてそろそろに 冬の催ひ風の変はれば
風厭ふ吾妻辺りは如何とて 思ひやりつる嶺向こうかな
珠櫛笥箱に別け入る名は一つ 人に知られぬ夜の心に
宓の闇胸の奥方一つ名は ひとものに咲く真珠の星よ
聲にせばひとたび鳥と為りにけり 吾妻に向かへ名にし負へばや
夕されば鳥の空音の漣と 麦星に寄せて言ノ風ぞ吹く
伝ゑたき事言へぬまゝ消ぬべくは 雪を忘るゝ春の寂しき
咲く花は徒なる方に移りゆく 吾妻の山よ名こそ惜しけれ
雪失して花も散りなく無何の夜よ 憐れ恒とも其れこその星
成る程に我に張るけとも如何でかは 何時もをじなく手づつなりけり
降る雨の止むとも先に初想ふ 日々を重ねし夜々を越しゆく
やつかれと掬ぶ狭間の繋ぎ目は 世界無辺の真中となりぬ
交わす風は軈て波紋の綾なれば 本の心に真珠育む
嗚呼然かと感ければこそ有明の 月見る迄に想ひこそやれ
やつこあれ呼び交はす名を想へこそ 何方なりとも還り給はむ
意為る涙しほ垂る透ノ色 言ひ穢すべき言ノ葉もなし
汝が頬をすがらに蔦ふ珠滴 温き掬ぶ手透りて消ゆる
凄まじき憂き世の闇へ慄くと 凍ての無言に吾れと聴く息
陽は今し隠れて今日は極まれり 闇の黙に揺るゝ草の穂
草の穂の戦ぐ馨りの清やしさは 憂ひ慰む新た風なり
悪戯に儚く過ぎし思ひ出は 音も光りも日々に見隠る
淋しさの心に零す星ノ色 肖ゆに寄せれば二つ星呼ぶ
見隠れも呼ぶ名は一つ連らの星 煌り交わすに笑みの嬉しき
真珠星憂き世の闇は果てなくも 行く方灯す案内奏ずる
描く日が如何で違へど過たず 心に燈す星が在りせば
朝は来ぬその朝毎に戸を開けて 薄き一日の暁月を知る
夜と朝の狭間に掬ぶ繋ぎ星 世界広こり曉緯始む
朝の陽に生まれ出づる日然るべくと 思ゑる程に振るゝ心は
混ぐわれば汚れ見難く黒めくも 星を倣ひて光り放たむ
結び目の仄かに徴す嬉しさに 光り落ゆまし細石涙す
み代を経し真珠の涙何しかも 夜に瑆れと風は吹くらむ
駒や疾け音を見つけに神楽月 ゐざ吹き行かな音姿観に
人ゐゆき日ゆき月ゆき年はゆく 恋ひて弥らん冬の夜な夜な
行き帰り見れど愛しき冬空に 光り在します真珠星かな
何処ともてゐと還へるや汝が空へ 燁り交わさむゐさ参ります
鈍色の薄雲暗き朝明けは 空も野山に色落ちにけり
何と無く山の尾の辺も白むれば 冬も吾妻に立ち始めけり
暮れ泥む半空に舞ふ風花に はだら色混ぐ秋と冬見ゆ
薄暮れの光りも弱き冬影は 隔てぬ程に夜をとくらむ
枯ら風に冬も寒しく音変へて 匂ひますらむ冱ての星かな
凋む月濃くも薄くも程々に 星も静けし吾れも惺けし
東路に月の舟さし出づる夜の 山も隠さぬ嬉しさを知る
始まりの何やらゆかし冬の夜は 月といふ舟浮き寝すらしも
白雪の冬に磨ける山なれば 神世の在わす静けさ思ふ
古の灯し捨てたる空星の 光り淋しき残す透き色
熄みしゝ我が大君の高知らす 高天原に透き花の咲く
咲き続く星の林や明けぬらん 透き色ながら朝ぞにほへる
明けにある霞み透くの空き星よ あさき冬野に泡沫に咲く
年の瀬に近づく毎に咲き惑ふ 月に日に異に冱てまさりつゝ
寒々と朝は冬日となりぬれば 道をひたせる霜の花かな
子の月に寒さ増しつゝ降る霜は 枯葉に凍り陽の色に散る
霜華の咲きたまりたり冬朝の 冱つゝく陰の一群白し
聲もなく尽くす色なく果無ぶも 光莉の零す星の華かな
はじまりの冬に凍てたつ中空に 青が光りの孤星出づ
師走なる幣も取り敢へず関の山 行けど行けども限りなきまで
一昨日も昨日も努めて寄る辺なく 暮れ待つ月の忙はしけり
駆け捨てし日々をさ走る黄昏れに 柵なれぬ雲は流るゝ
今日もまた明け暮れ通ふ道奥の 陽の静かなる淵の色かな
遠方の七日の内は過ぎめやも 限りの月と言ひしばかりに
四極山雪降る年と知らねかも 埜々疾き含める野辺の白梅
我が庭の枯れ枝動かす乾風に 昨日小春の夢は醒めきに
道奥や今し一度戻りせば 紅葉見せばや心あるなら
忙しくも形見がてらと立つ霧の 未だ干ぬ露に月寄するなり
笹鳴くは気に吟ばず来ぬ冬雲雀 聞くに忽ち刻過ぎにけり
多磨川に曝す言ノ風更々に 市尋ねゆく歌の愛しき
帰り来て吾妻の暮れの夕日影 幽か掛かるも影凄まじき
山越へし夷にありせば冬日暮れ 枯れ野處に鳥多集けゐる
墨染の夕べの山を眺むれば同じ雲居の煙りと似たり
上下になづさふ影や鳥に鳥 様子見し影紫一つ
冬枯れの河透白し野を広み 息吐き余る笑まひつゝ者
虎落吹く冬木に止まる矢形尾の 其の秀つ鷹や蒼鷹なり
空破る醜つ翁の狂れたる 荒言だにも鷹や啼き裂く
追ふ毎に哀れ千鳥は彼方此方へ 翔けるに翔けて息吐き去にく
夕猟に五百つ鳥立つ青鷹や 思ひ誇りて恕す事無し
返り来て名のみを告りて鳥猟すと 見れば背向の野辺傾きぬ
言ふ術の辿きを知らに招く由の 彼岸の淵の黄昏れ朱む
けだしくも月待つ影や蒼鷹 千鳥踏み立て咳れ告ぐる
青満たる冬の暮れ方幕引きの 小暗し野辺よ泣かま欲しけれ
寒き夜の風の宿りを誰ぞ知る 鷹も千鳥も闇に融けなむ
影のなき山裾に聴くひと風は 朽たら野果ての虎落笛かな
未だきより冬へ粧ふゆく景色 寒々白む山眠る比ろ
心なく寒し流るは四極なり 横ほり臥ふせる水鑑かな
散り散りの儚き影は誰が故か 水の鏡を並べて染むらん
影ろひの水もせの朱はゐとをかし 徒なる色の移り易さは
石疾る今も有り越せぬ滾つ瀬に 思ひ染めてき清明き影かな
種々に色を変へつゝ水鏡 見し明らむる今日の貴さ
吹く毎に水面にしづく紅に 君が御影を思ほゆるかな
秋紅葉忘れた夢と思ひきや 風吹き分けてまたと見むとは
今少し残り紅葉を散らしつゝ 水く鑑は重ね隠るゝ
水な面に綾織乱る朽葉色 掻き逢へぬ間々千々に流るゝ
寄られつる影も僅かな紅々に 還さぬ波の花かとぞ見ゆ
淀破る落ち滾つ瀬に手形なく ひたすら戯る朽葉哀しき
紅葉葉も名のみなりけり極ノ月 瀬々に寄するは冬の白風
岸影も澱むものなき此の川も 紅葉見捨てゝ冬なりにけり
年を経て幾度と洗ふ鏡音は 朽葉の影も精ぐ風なる
暮れ来月至り至らぬ風あらじ 細やぎ足るに冬の木々なる
木も冬む面付き瘦すく足手影 吹きて問はばや言少なゝり
聞かまほし冬の心を問はばやな 山見て帰る人も逢はなむ
きかまほしふゆのこゝろをとはばやな やまみてかへるひともあわはむ
暫し待つなほ眺むらん冬月の 夕影照らす鑑あるなら
月出でし鏡の面に影ふれて ゆるりゆるりと水魚のゆかしき
水中のひれふる姿見てしより 澄める月影神錆にけり
何處ある今し痛みに宛てどなく 手当てせざるも解らざりける
侘びしらに名も無き涙零れては 体の草壁露と還へらむ
陽炎ひの揺るぐ世界は蟒蛇に 建てあへぬ儘勾引さるゝ
重なりしほとりの雨音あな安く ゐとど置き付き栂に玉響
聴きし音は似るも似つかぬ雨粒の 心拍つかに繁く叩くも
雪雲に切れ目あるらし一筋の 日を蝕むに箒星ひく
瞑る魔の真昼に徴す恒ノ星 見め輝ら輝らし真砂散りほふ
涙星一つと一つ世を写し 檻の奧處に孤りそれだけ
徒なれど雪には雪の雪乃色 人に知られぬ花や咲くらむ
見付く事事失すものも志達ち 勝事成らしめ國こそ興す
幾許の将の渡世も空蟬と 掌指し示し賜はむ
何も無いみな綻びし手底よ 命籠りし種子こそ握れ
此の篋努開くなとそこらくに 楯の言ノ葉堅めしものを
女々しくも心も失せば柄も折れ 草薙ぐ劔新墾与するも
逃げ水の張り子の城は消え遣らで 消え方ならぬ扨の生き物
忝彼方の瑆り眺む夜は 永き世を継ぐ夢の夢かな
瞬くは星の囁き覚しくも 心由なに導べにはやる
音にある私の心また聞こゆ 寄せては返す実ならまし
天飛ぶや爪引く弦や遠音より 来鳴き響もし正鵠を射す
不覚にも奥間に隠る降人の 倒るゝ処土摑むかに
真そ日なる此の一日だに目を側む 問ひて正無ふ真墨乃鏡よ
口惜しき一つと一つ助け呼ふ 後ろ見す影定めけらしも
奇くも思ひの蔭は彼ノ岸の 無くなる聲を朝な朝な聴く
うつそ身は雪に埋もれし後ノ代の 聲も聴かねば意有りせぬ
朝日子の生まれ知らせる遠き聲 在りて世の中後よ栄まし
解けぬ間々何も無き間々万代の 捻みし手見つゝ忍びかねつも
日に暮らす今草深き処また 意創りし敷きませ國と
願はくは宜し神代ゆ露草の 写し意を色異にして
ゐさ詠ふ吾妻遊びの言ノ葉を 笛吹き遊ぶ言ノ風の謌
よしや君埜々かた笑みて応へむは 掬びし綾の二つ巴と
よしや君埜々かた笑みの頷きに 重なる聲の鶯ぞ鳴く
よしや君埜々かた笑みの頷きに 乱れて花は綻びにける
よしや君埜々かた笑みの頷きに 吾も頷きかた笑み還す
踏みゆきて雪の囁く冬の日は 軽き疼きの快き哉
雪華や消ゑ逢へぬとも春されば 花なき枝も風に溶くらむ
今し見ゆ指先触るゝ一条の 珠の滴は仄かに赤む
涙解く散るぞ禧き殘りなく 心かろさの程を知るかな
何處かな何故痛む今もかも 過ぎがてにのみ人よ感ける
何處より彼方の煌り深み射す 何處痛むと覚ゑざりけれ
年に沿ふまた身を一つ重ねては ゑだも一枝と冬めきにけり
泊洦舎浮き舟を呼ぶ誰そ彼に 運ばぬ風に聲のみ落つる
年の瀬に問わず語りを河津らへ 落ちても水の泡とこそなれ
瀬戸に立つ眺め長閑な金澤や 日の暮らゝくも嬉しかりけれ
風に聴く此の年の事いづれとも 家路にあらば嬉しからまし
瀬を早み十二月日を急ぎ走る 思ひ起こすか問わず語りを
年明けの唯の思ひは秋までに 歌詠みあげばやむ事なしと
祥ひは寒さ残るも梅の咲く 其の如月の望月の頃
鶴岡の春は夢殿日向置く 弥生を迎ゑ温む埴土
卯月なり春めく日々に桜桜 鷹も鳩為る山もとの里
早苗月朝の冷たき白埴に また藍を植う歳幸あれと
忘れぬよ奏で優しき言ノ風は 星巡る歌水無月に聴く
音眠る星と暮らせる夏の夜は 弥涼暮月空櫁歌ふ
言ノ風の通ふ言伝て葉之月は 火なる律の風夕立燃ゆる
菊乃月風や吹きさぶ秋空や 野分に野分気も安げ無し
長月のうら嘆けましき蟲ノ聲 過ぎぬ暑さは年の可笑しき
神無月紅葉せぬ間々吹き寄せに 害ふ汐と驚かれぬる
年ノ瀬も寄る霜月にゆき惑ふ 月に日に異に春秋夏とは
身を積みて照しおさめよ暮古月 難し年とも曇りあらすな
たれ籠めて年の行方も知らぬ間に 三十日近くに鐘の音聴こゆ
習わしの行きつ戻りつ吹きし風 月の宝は十二乃稽古
願わくば稽古十二の習わしへ良き風の吹く新年なれ

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