ML玉葉集 秋上(令和二年八月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

→「歌詠みメーリングリスト(参加&退会)

今月のピックアップ十首

葉をかさね年を重ねて広島の木々みな同じ齢なりけり
うつせみの涙は露をそそかねど今日は心にうちしぐれつつ
朝葱を首に巻きつゝ咳一つ昔を今にかへすよしもがな
木漏れ陽のまだら影濃き夏庭を斜めによぎる軒の縁取り
蝉時雨まくらに通ふうたたねはつゆばかりなる夢路なりけり
そのこゑに逆らふ波のあらめやも大和島根を統ぶる島守
舟泊てに繋ぐ舫の固結び解けどもいまだ凪ぐ和歌の浦
たたなづく青垣山はほの見えて昔にかすむ三輪の神杉
梨食めば栗もと思ふ高鳴りになほ控えしは巨峰なりけり
里わかずはやすみそめし法師蝉みのりの秋をつくづくと知る
海原に時の動くを見てしかな蜜柑の山に揺れるざんばら

今月の詠歌一覧

「竜胆」
りんどうのつぼみを君と思ひぬるいくら待てども姿見えずに
十六夜に月にリンドウ君恋し花の言の葉君に寄り添う
「偲ぶは我が幼き時なりけり」
性(さが)なさは二上山つ煙にぞ昇りにけりな長くしもがも
二上の神に誓わん行く末を共身煙にて昇しまでも
「蝉しぐれ」
梅雨明けの後には蝉の時雨かな紅葉に雪に常に降りける
降り積もる想いに似たり雪紅葉青葉紅葉の君を慕いて
「三笠山」
天の原ふりさけ見れば夕さらん雲靡き混じ我が心結ふや解くやと知りやせむかな
三笠なる月ならずとも月をのみうち眺めばや里ぞ恋しき
なほ恋しいづこの月もみかさ山さして変はらぬ眺めなれども
天の川恋のさやあて愛染は結ぶや解くや星で占う
「両親への思い」
我が思ひ山雲越えて燃えけんや春風が由髪吹かれんに
我が髪を撫でて愛しむ手のひらを思い出させる夏の汐風
「ほととぎす」
草露を川風ゆたに吹き抜けて落つる玉水立てる土の香
心をば空になせどもほととぎす雨の雲間の聲は届かず
卯の花の山越え来たるほととぎす白雲ばかり連れるものかは
風の音を郭公とぞ聞きなして後には白き卯の花の月
本歌をば気づかぬほどに恥入りて秘してぞ学ぶいにしへの書
いにしへの名立たる歌の草々を摘みてぞ暮らす老ひの春秋
ほととぎす過ぎぬる雲を吹く風になほ響きたるほととぎすかな
過ぐる跡を追ひてはれゆく村雲の月もさやかにほととぎす啼く
空白み月うすあをく残れるに過ぎにし鳥のなごりをぞ聞く
老ひぬとも気は和歌の浦波蹴立て六十路分け入る無垢の手習ひ
卯の花の月しろたへにみがくより鳴くや待乳の山ほととぎす」
さやかなる月は見ずとも時鳥五月の空にすみわたるかな
ラジオつけ今日も出会えり良き歌に今のうちだと鳴く時鳥
神代より来ぬ夜あまたのほととぎす待つこそ人の望みなりけれ
鳴く鳴かぬしかれど月はただ残り隔ても知らぬ有明の主
「浮世を思ひ嘆ける」
花ぞ咲く色も未だきにうち枯れて知り離るるこそ世の例なれ
十六夜に咲くやこの花花ぞ咲く蕾も香る夢月夜かな
「人生、終末」
誰そ彼と叫ぶ世界の夕まぐれやがてあかるきひを迎へつつ
いにしへのやまと歌にぞ知られける迷ひの道を照らすあけぼの
あしびきのやまとの歌の道険し花月見つつ行くが楽しさ
かへりみれば花も紅葉も匂ひけりなにかやすらふしきしまの道
いまむかし心を繋ぐ歌の道花鳥風月心琴鳴る
「干潟朝景」
夏近し上のそらにて眺めけり雲にまぎるる白鷺の空
夏の門(と)をあけて飛びこむ白鷺や競べに勝り時を告げなむ
きらめきて海風渡る夏の海松帆の浦のせせらぎ涼し
松帆浦コロコロ鳴るやせせらぎが玉石早瀬万葉の浜
夕暮れに満ちては返す松帆浦早瀬の音に想いつのりて
雲居敷く梅雨のはたては白鷺の谷津の干潟に波の寄る見ゆ
うちしめる浜の朝霧やや晴れて夏を知らする白鷺の空
風なびく松帆の浦の水はやみみぎはに騒ぐ波の白玉
夏ふかき山の緑は空かけて舞ふ白鷺の色を見よとか
露とだにとはば答へむとふ人をまつほの浦に藻塩たれつつ
「大雨時行」
止みてこそ其にわが袖をかさねける軒打つ雨はなほもはげしく
いそぎゆく涼風やふくかえり道雨や近しと木々ささやきて
彼方には何をかあらむ雲の峰五色の橋を渡りゆかばや
音高くふりし大雨傘たたく我が決心を問いただすよに
「土潤溽暑」
惑ひける夏をや招く灯はともり赤くいろづく軒のほおずき
雨やはと空みあぐるも雲はなく蝉の時雨はただ響きけり
鬼の灯が灯るほうずきちろちろと招く御霊に走馬灯かな
「隠岐後鳥羽院」
裂けて散る隠岐の島廻の荒波は割れて砕くる心とぞ見る
許さじな同じ無念と伝へ聞く三つの鱗の伊勢武者の末
西海の果てにも泉有りと知る汲むほど冴ゆる隠岐の月影
かむながらたくひのかみをうやまいてきょうもきせんのきてきひびけり
玉櫛笥藐姑射の山の片陰に寄り添ふ我ぞ二心無き
歌を得て我行く水の魚なりや百瀬の滝をいつか昇らむ
ちはやぶる神の焚く火か夜さりする海士のたく火か星月夜かも
いにしへの新島守もながめけむ海原焼きて沈む日の影
隠岐の海の風はさすがに心得て浦にて騒ぐ波ぞ稀なる
西の海の仮の宿りを訪ぬるに水無瀬の月を幣と手向けむ
いざ行かむ行かねばならぬ隠岐神社行かねば歌の道ぞ絶えなむ
怒濤寄す隠岐の海越ゆ小夜千鳥の声聞こしめし院笑みたまふ
隠岐の海の怒濤ふみこえ(文越え)敷島の道ある世ぞと告げよ歌人
四方の関今年は我を隔つとも心ばかりはおきの旅人
関の戸をあけ暮れ越えていづこへもきみかり使ひ思ひやるかな
「広島原爆忌に寄せて」
蝉時雨今日ふりまさる相生の橋のたもとに涙添へつつ
葉をかさね年を重ねて広島の木々みな同じ齢なりけり
広島の民ゆく道の長手にはあめの焼く火もかひなかりけり
木下闇に生ふる撫子手折らめど見すべき汝がありと言はなくに
春秋を永らへてのみ見るばかり花をも月もあらあむ限りは
うち沈み潮干に見えぬ隠岐の石を玉とて拾ふ御世は来にけり
隠岐の浜の埋もれ木なれど年を経て花咲く御世にあふぞうれしき
原爆忌川面に浮かぶ灯ろうに平和祈りてそっと手合わす
光ある花ゆゑやがて名のるなり木の下闇のやまとなでしこ
よろづよも花うぐひすにめぐり逢はむ波立たぬ世は人にこそよれ」
磨かずは光をそはぬ石瓦玉とて拾ふ御世ぞかしこき
静かなるもとやす川のやすかれと祈りをのせて浮かぶともし火
うつせみの涙は露をそそかねど今日は心にうちしぐれつつ
君もさは霞むみどりをながむらむ木々かさなれる高角の山
つらきかな非のなき人の心まで焼きほろぼさむ昔思へば
おもかげは霞の奥に見えずともわれぞなびきて山はつれなき
「吉原」
吉原の柳は今も変わらぬにやすく移ろふ人の心ぞ
通ひきて今日みかへりの柳こそ昔にましてなごりをしけれ
柳絛に結ぶ離れの言の葉も八十年のちの嫗の諸手
横浜に貴面を期して別れしも柳絛今にゆれるばかりも
朝葱を首に巻きつゝ咳一つ昔を今にかへすよしもがな
いにしへに珠を繋ぐと詠まれなば心も留めよ門立つ柳
身をやつし今に残れる大柳おはす姿に涙こぼるる
吉原に君と結びし還なれば離れてもきれぬ縁ならむや
茂りあふ木々に稀なる中空に競ふて響む蝉の声かな
「梅雨明け」
むばたまの黒潮遠き里ながら磯の香立つる夏は来にけり
木漏れ陽のまだら影濃き夏庭を斜めによぎる軒の縁取り
明けにけりとはつゆ知らず木漏れ日の影まだ涼し軒のうたた寝
梅雨去りて空さりげなく晴れわたり軒に影抱く午後は来にけり
梅雨明けを歌で知るらん和歌所歌のみやびた日々のしあわせ
明けにけりつゆのあとさき数へれば心許なき夏の跡形
長かりし梅雨明けぬればひさかたの光さやかにすめる月影
蝉時雨まくらに通ふうたたねはつゆばかりなる夢路なりけり
梅雨明けに霧立ち昇り夏が来た沸き立つように蝉しぐれかな
初風のそら音涼しき夏の夜は月のかつらに秋を見るかな
うたたねの閨のすみずみうちしめりなほ忍び来る音ぞ稀なる
心急く人待ちかぬる秋まだき小道を分けて吹く夏嵐
身に沁みるあはれは秋と思ひきや籬に伝ふ打水の粒
武蔵野は濃くも薄くもみな緑野は若草と何思ひけむ
舟泊てに繋ぐ舫の固結び解けどもいまだ凪ぐ和歌の浦
潮待ちの湊はいまだ凪ぎわたりさて見失ふ先達の舟
月の舟漕ぎいでてみれば桂川みなそこまでもすみわたるらむ
見渡せば草はみながら深緑まだ名に負はぬ安芸の山里
打水にあさゆふ露の清ければしばしは夏も忘られにけり
武蔵野の草の枕を結びてし去年の都の夏ぞ恋しき
庭の面ははや打ち水の跡絶へて折しも見ゆる遠巻きの雲
草の上を耳に冴やなる風吹きて目には緑の夏は来にけり
石見のや高角山のふもとより君乗せて吹け野辺の西風
石見野に四方の秋風吹き集め道よやすかれ靡け群山
足引きの山みな靡く石見野に心して吹け荻の上風
百鳥は高角山に集まりて武蔵へ渡す羽根の架け橋
荻の葉ゝそよと音する夕まぐれ萩ぞ近くて見るべかりける
荻萩の見分けも辛き身の程に上を下への秋風ぞ吹く
東の国のはたてに立ち尽くす松の一つもありとこそ知れ
「後鳥羽院生誕840年」
庚子の年にぞ還る七十度水無瀬の帝御霊安かれ
あなかしこ同じ庚子末汚す謹みて告る我も還暦
今もなほ君がみめぐみ深からし水無瀬の清水くまぬ日ぞなき
あなかしこ我れ同じ日に生まれけりいにしへいまの暦は違へど
後鳥羽院ネタへの反応が早くて感激して二首
隠岐の辺に日の入る西のはたてまで雲立ち去らぬところぞと見る
島守の勅をかしこみ風も潮も健気にも凪ぐひとかどの海
やももとせ道ある世ぞと灯せ火がつがれつがれし大和魂
日の出づる処の天子ましますはいづこの空も雲井とぞ見る」
あさゆふに限るものかは島守の心にかなふ波立たぬ海
生まれし日歌聖と同じ敷島の歌の心を宿す証か
ならふとて果てこそなけれたけの子のひとよふたよも知らぬ我が身は
昔より千代に八千代に契るとてなほぞつぐべき大和魂
四方の関に海霧(うみぎり)の立つ朝の(麻乃)雁の玉章八十島翔ける
なよたけの世々を越えてぞひゞくらむ島守にゝる調べ歌の音
雪折の下行く道を訪ぬればつゆもたわまぬなよ竹の節
目に見えぬよそなる秋の風よりもまづ嬉しきは雁の玉梓
なよたけの憂き折節を数へ侘び幾夜寝覚めむ隠岐の島守
なよたけのふしても思ふ世の中をおきの島守いかによむやと
あきの野も雁の涙となるまでに行きかふ空や君が玉梓
世々ふともよみつくさじな呉竹の嬉しき節も憂き折節も
島守の起き伏し繁きつれづれに安らふ程ぞなよたけの歌
わたつ海にやすらふ旅を思ひ寝のおきふし知らずひぐらしぞ鳴く
そのこゑに逆らふ波のあらめやも大和島根を統ぶる島守
「涼風至」
涼風にうたた寝やするせきもりも秋立つ夜半の衣さむしも
天つ人やいかでまよはずおりたたむあまたたきける門の篝火
秋立ちて歌を詠まんと書をひらきなほ重ねける扇の風を
秋来ぬと扇ぐ扇の扇面に秋の七草めでつ数えつ
「梨の季節」
物思ふいとまも梨の実の程にさりとて甘き幸添ゆる水
梨食めば栗もと思ふ高鳴りになほ控えしは巨峰なりけり
閼伽水も干ぬればくるし詫び言に梨たてまつる南無阿弥陀佛
「あらがねの夏」
あらがねの骸となりし友柄の故郷願ふ唄はいましも
「雷鳴」
錆びつきし車軸を濡らす左衛門町廻る月日も雨と滲みゆき
車軸なす雨ときほふや蝉時雨軒端になれの聲を待ちつゝ
天の音もとほくになりぬあかねさす鴟尾蝉時雨鳥の囀り
雷鳴のとどろく音に稲妻がはしる闇夜を君とすごさん
雷鳴にをぢてしあればむばたまの闇に希なる人を如何にせむ
人の世は儚きものとおもへばよ閃く刹那逢はゞ逢はむや
空は裂け滝と砕けて鳴る神のいと濃く残す茜色かな
雷の遠くに鳴るを見てやれば稲穂の波の実り揺れなん
映え映えし青き稲穂を冷ましをり光降り来る宵の稲妻
むばたまの千夜を百度重ねてもあふことかたき夜にやあるらむ
「盆休み」
八尋なす木の本盈てる湯飛沫に今日を光と子らが戯れ
「故郷」
夏霞襲ねしごとに離りゆく青山遠き父母の里
遠山路幾重も霞む路の辺の葛の葉いつかかへれると云ふ
関の戸は霞とともに立ちしかどまだなこそとは白河の秋
まだゆかぬ勿来の関も九十九髪ただおもかげにみゆるばかりと
越えやすき霞が関もあるべきになにか勿来と人のいふらむ
陸奥をたどる旅人うち靡きねずの白河名こそ聞きけれ
歌枕見て参る旅偲ぶとてまず越えて行け白河の関
三輪山をしかも隠すか雲だにも里わすれじの山邊の道
三輪山をしかも隠すかわが目には今もさやけき山邉の路
いとけなきあゆみもはるか山辺の路なつかしき三輪山の夏
わが思ふ霞が関の関守はいざ旅まくら結べとぞ言ふ
古里の三輪の山本霧こめてしかも隠すか杉たてるかど
しのぶにもまだ陸奥を白河や知らでしひとり身をこがしつつ
三輪山に椙の門ありときゝしかどけふ九重に霞む青垣
夏山を越えむとすれば霞かな今に知られぬ大和しはるか
訪れぬ身をな嘆きそ人ぞ詠むまだ見ぬ歌の枕なりけり
歌枕訪れで詠む出無精の身をば嘆かで家に居れ我
草枕結ふや結はずやなべてみな憂き世は玉の緒の夢として
みちのくのしのぶもぢずり白河の知らでとほくて詠むべかりけり
こゝろして吹けとのたまふ島守を思へば未だ石見野にあり
神代より関をぞ人は思い遣る越すも越さぬも白河は秋
隠岐に居る波ぞとばかり秘め置けど早吹き返す石見野の風
人詠まぬ霞が関を眺むれば語るに落つる賎のたは事
たたなづく青垣山はほの見えて昔にかすむ三輪の神杉
西行もさぞな詠みけむ武蔵なる霞の関の月をながめて
たゝなづく青垣山はかすみつゝ昔を今にくりかへし三輪の御社ほの見えて青垣はるか大和し美し
武蔵なる霞の関も霞み立つ関も見るべき春おぼろ月
いにしへの霞の関は知らねどもこゝろはおぼろ月をこそ思へ
おのづから知るばかりなる石見野ゝ風は隔てず隠岐の潮風
秋とだに白河の関を思ひつゝ都の春もみづぐきのあと
都辺に隠岐も難波も無かりけり歌の枕は目にぞ稀なる
都より西はまことに西とかは須磨と明石の境をば見よ
行く夏に関越えかねる旅人の袂を冷やせ須磨の秋風
これよりは人もいなばの西の果て松浦の山に妹が袖ふる
ふるさとに人も去なばのしろうさぎ松浦の山の妹見ざる間に
武蔵なる霞の関にあらねども秋もおぼろの月のあけぼの
さやかなるあきの月影見るほどは武蔵も春も霞むものかは
送り火の煙のあとも有明に武蔵も春もかすむきぬぎぬ
「虹」
土砂降りの雨あれば掛かる橋あり
こうやって並んで見たねあのころは虹を指すのは禁忌だったね
かたならべさがしていたよあのころはただしらなくてなんにもなくて
堀川をもとほり来れば入日射す時計がなんにもないと
なんもないはずのこの世を塞ぎける人は尊しテッコンキンクリート
ないものはないとて開きなおるとも磯辺にあまる海の幸々
伊香保ろの八尺(やさか)の堰塞(ゐで)に立つ虹(ぬじ)の顕はろまで
夏の日の天に残りし弓形に鯨の紡ぐ夢を見るかな
なんにもネないからいいネあおぞらはぽかりと浮かぶ雲になりたい
「立秋」
雲帆の人も渡りし滄海に秋たつけふの鬢の白浪
風長ク浪破リテ会フ時有リ直ダ雲帆ヲ挂ケテ滄海ヲ済ル
秋来ぬと肌にさやかに感ぜねどもがすすきの穂には秋は来にけり
武蔵野に大和千草をえらびつゝ茅波なびく秋をまつかな
野草摘み大地の季節うつろいを感じいただくありがたさかな
帆を挂けて澪引き行けば滄海は夏と秋との出会う通ひ路
澪ひきて蒼き海原帆をはりて船の舵取り面舵一杯
帆を掛けて島影をゆく澪引きの船人の背を追へる秋風
渚には風の音にぞ知られなむ夏と秋との交ふる夕凪
「初めまして」
不二の嶺にかかる白雪妙なれば夏への扉たまゆらに開く
まどろみの夜は更けにけり海渡る風たつほどの今朝の秋
ふりそそぐ獅子の扉の天戸ひらき天空の波に身を浸しつつ
聞くからにうらやましきは夏の戸をたまゆらとのみ開く富士の峰
夏くれて目にもさやかに見えつるは荻の上葉をかよふ夕風
通い路の扉はいまぞ開かれむ白雲に添ふその風涼し
いづこより眺むる富士の雪なりや偲ぶ術無き夕風の先
秋立つと軒端の鈴に告げにけるまどろむかたに音は寄りそいて
夕風は今しも耳にたちそめておどろきをればゆく野分かな
鈴の音の降りくるやうな星月夜軒端をすぎて風鈴にそふ
空翔ける獅子の呼び声身に受けて天の原には夏への扉
海士の空夏雲たかく青ふかく海にありては翠の波に
夏風のわたる軒端にふみて出づ麻の袂に隠るる蛍
白雲の涼風おろす夏の日に通い路の戸を風ふき開くる
三島より眺むる富士の雪なれば隠岐の海行く夏風の先
夕蛍あさの袂につつめどもうれしさはなほ身よりあまりて
見しままに語らふ雪の富士遥かさてこそ届く隠岐の浦風
雲居敷く奥つ城の島凪ぐほどにみな人集ふ海士の舟泊て
すみわたる安芸の月影見る折もとこなつかしき隠岐の夕風
瀬織津の宮の波音聞かまほしうみやまあひだ渡る麻の葉
時わかず波折りかくる滝川の瀬織津姫の袖やひまなき
あきの空さても隠岐より吹きくればみにしむ風もむつましきかな
あきたてば隠岐の波風夜もすがらわかたぬ袖の乾く間もなき
雲の峰なつかしきかな秋の空隠岐の島風吹きわたりゆく
雲居行く雁の声聞く秋の朝風凪ぐ島の白妙の月
おきの海のとほき島風吹きくればあきともいはみ夕べすゞしき
おきつ島あきを翼にかけて飛び雲ゐを分くる雁の潮風
秋されば四方の潮風霧わけて雲井をわけて通ふ雁がね
はるかなる八重の潮路をはるばると流れ流れていのち魂の緒
玉の緒の命をいかが送りけむ那智のたかねの滝の白糸
島響み風の音にぞ秋たてば雲延べてゆく夕間暮
波を分け八百に寄せ来る風のうへうみやまあひだ遊ぶかりがね
雨雲たち照りはたたけるいかづちの声ののち吹く雁あそぶ風
「八月十五日」
今の世をいかが見つらむ岩の戸の奥に籠れる皇帝ペンギン
しきしまの大和の国を出でばやと夢みていしか皇帝ペンギン
朝見てし向日葵詠むとせしほどに金の油にかぶりをとりぬけふ終戦の日なれば
さねさしの相模の夏の燃ゆる日を浴びつゝ人を待ちてしものを
干てもなほ日向するやいさめども地によろめきの京をとこかな
八月の野原の垣に夕顔の花咲きみだる夏の日のこと
心あらば昔刻みし手向けあり高砂百合の風に揺られて
いつまでもこの日の本に咲きわたる雲井はるかのひまわりの花
弾幕をくぐり抜けてし母なればかくて歌詠む今ぞ我ある
ぬばたまの夜に小百合花咲くなへに言の葉冴ゆる月の丘かな
小百合花秋の訪なふ山野辺に神あそぶごと光まされり
しろたえの衣の袖をひるがへし月の野原で神あそびせむ
ふるさとの神あそぶ野にふる袖は月をりなせる綾目なりけり
ものごとのあやめも知らぬ児のごとく舞はばや月のかたぶくまでも
神近き島にぞ集ふ人や誰泉を冷ます夏の夕風
島守の御代かしこしと伝たへ継ぐ隠岐に人あり歌ぞ豊けき
ぬばたまの夜もすがら舞ふ島人の憩ふ泉を渡る夏風
言の葉の風と波とに親しみて島守る人の歌ぞまぢかき
澪標葉月の野辺に咲く花を著す人の聲ぞ遥けし
迷ひなば陽を向きて行け向日葵の笑顔忘れぬ人の言だま
忠魂碑に祝詞を唱え去にし時高砂百合が風に揺れけり
青空を眺む時とてありがたしさきの戦の綴り見しあとは
万燈に護国英霊あかあかと鎮魂ラッパ高く響けり
「遠島御百首かるた」
綱を掛け松をたづねる旅人の歌読む声と憩ふ島人
隠岐の辺に伝手なき身をばいかならむ焼く火の山を標とやせむ
百伝ふ謂れ悲しき遠島の深くぞ冴ゆる墨染の歌
ももづたふ八十年を経る隠岐の宮にひぐらし鳴きてほほえみ給ふ
横風に我立ち濡れて思ひ知る隠岐の山にも雫ありとは
君住むは隠岐の泉と聞きしかどかの磐余にも立ち慣れにけり
びたる拙き歌にさしかへて花と香とをいつか贈らむ
ひぐらしの聲を数ふる宮参りほほえみありく玉鉾の道
船出せば焼火の山に霧笛吹くならひをつたふいはれのお山
みあかしの灯るお山を知る辺とて隠岐の外山を渡るかりがね
標あれば八十島かけて漕ぎ出でむ羽風を添へよ隠岐の雁がね
招かれてなほぞ焦がるる焼く火山ゆめ吹き消すな隠岐の夕風
あはれ昔山のしづくになりかねてもの思ふ露の隠岐ぞはるけき
一人行く秋山とのみ思ひきやしづくを添ふる麻の葉の露
玉かぎる夕さり来れば百日紅山の彼方の炎帝を恋ふ
吾が袖もかわく間もなしもの思ふ露の里人なればなりけり
山陵に茜さす日の照り映えて夾竹桃の花ももゆれば
置き惑ふ暁露に立ち濡れて白菊の花摘みに行かまし
現身の人なる我や二上の山の雫に立ちや濡れまし
八百年のほどぞ経にける歌の香のなお立ち上る隠岐の御陵
かへり来ぬ昔の人ぞ引きむすぶしをりもむなし伊勢の松が枝
真柴刈るその里人にめぐり逢ひて露けき袖もしのばるるかな
にわかには見えぬ手練れの結び松解くも解かぬも伊勢の白浜
引き結ぶ松は有間と磐代のいづれ劣らで真幸きくぞ見る
神風や伊勢の白浜たちかへり寄せ来る波ぞ優しかりける
思ひ寝の夢かうつゝかしら波のたちばな香る和歌の浦風
大津より無茶振る人は有馬山いでそよと吹く安芸の初風
秋山を忘るゝことの大津より無茶も有馬の初風ぞ吹く」
いそのかみ古きよろづの言の葉に思はぬ露をまたも置くかな
繰り返しかへす衣の夢だにも昔を今にしづのをだまき
思ふより秋は色づく天の川と渡る舟の梶のまにまに
雁がねも嬉し涙にむせぶらむ露けさまさるあきの山里
日々並べて夏は暮らせど捻る髪も草刈る鎌も青に草臥れ
「俳句投稿(初回)」
青空を藍に染めあぐあやめ草
秋ふかみかるゝばかりのあやめ草のなごりの空の高き藍色
藍染の色あせてゆくあけぼのにあやめも知らぬひぐらしの声
青は藍愛は恋より出でつらむ
天空に藍の羽衣ひるがえる
藍をを染むあやめも知らず戀となるなり
昼下がり声ふるわせてなく蝉の命果てなむ今宵の月に
空蝉のすぎゆく夏のあわれさよ命果てなむひひと夏の夢
「ツクツクボウシ」
つくづくと法師の声ぞ説きたまふつらき中にも秋はありけり
里わかずはやすみそめし法師蝉みのりの秋をつくづくと知る
「玉梓」
関守もあらぬあなたに空越えて雁や千鳥や歌ふたまづさ
瀬をはやみ塞くものあらぬ川の先ヤウンモシリに届くたまづさ
「蒙霧升降」
秋霧のな立ちそ立ちそかのひとの心や見えず思ひわぶかな
はらはらと降りそそぐなり樹の涙霧に佇む袖をぬらして
「軒漏る月」
漏れくるは今はこちなき声なれどそれでも頼む木間なりけり
月の橋照らしだされて素直なる心目覚める姥岩の祈り
「恥ずかしながら」
人住まぬ島にて独りながらへば天に任する日々のつれづれ
伊勢武者の敦盛とのみ思ひきや森にぞ集ふ四方のけだもの
その森に集へる四方のけだものもものを言はでや子を思ふらむ
時置かで巧みに本歌取り給ふ袂を冷やす安芸の涼風
あづさ弓あつさのひかぬ里よりや君にぞかよふあきの涼風
ちはやぶる神厳島むべならむ人をも歌も集ふまほろば
石見より無茶降る雨の朝は来て振るには重きうちしめる袖
遅まきの石見の風を待ちわびて振るに振られぬ袖干しにけり
昨日までさやかに見えぬ風の中に遅まきながら秋も来にけり
隠口の遅れ馳せにも立ち馴れて寄りて月待つ二本の杉
「よろしくお願いします」
月の舟天の水面をひそやかに見ゆるは誰そや今宵の夢に
君みてし月も水面の干てあれば盈つ天雲もこひや待たれる
天の原に浮かぶ月舟路たへて星影盗む江都三千光
ひそやかにみゆるおもかげあとたへてあけゆくそらにありあけのつき
今の世は徒歩(かち)で渡らむ天の川雨枯れ続く秋にあるれば
天の川カササギ橋のかかる夜に月の舟人たなはた歌う
かれぬとはきけどつきせぬものおもひあまのいさごのかずもたらずて
ものおもひつきせぬものとしりながらやがてはかなき五尺五寸や
月の舟さして見えねど袖の香に去年のたもとのおもかげぞ立つ
雨風に耐へし筑紫の生きの松靡き重ねよ三保の松原
輝きをますは浮かぶる月の舟あふせまちわぶかの人乗れば
澪引くはたなばたつめの舟ならん夢の河原にわれは来にけり
美保の浦夜に出で立ちて為朝が夢に見つらむ鵲の橋
三保の浦にためつすがめつ弓張のいる月影のためともなくて
「入館許可」
新型のプロパガンダ炸裂しのるものらぬもゲッベルスかね
我は鳩不如意の有りと歎くなら人の情けぞ有り難かりける
ひともなきうちにこだまのくりごとにくちもとよせるしらくもはなし
世に倣ふことにさかしき民草はそのわけを問ふことを知らずて
「ことのはの河」
鳩をとこつね豆よりほかかたらはねどもひとゝことのはにつきてかたりぬ
ことのはのきえゆくさきはしらねどもみあげばかゝるあまのかはらや
ことのはの河原の星をあつめつつ紡ぎ機織る天の羽衣
「旧暦七夕」
急ぎゆく櫂のしずくや流れ星星逢ひの夜に数多降りける
けふよりもまた待ちわたる天の原彼方に去りし舟を送りて
蜻蛉のきらめく糸を紡ぎだしあきず羽衣君に捧げん
かしかきてあけじばなれにくりかへしんしゅゆしらにまさりゆく夜は
天宮に帳をおろす睦言もけふ芦原の國に降り敷き
天空の言の葉降りし一夜かな橋を架けたるカササギ飛び立つ
「蝉」
身を振りてけふをかぎりと鳴く夏も終に慣らはぬ世見にあるかな
ゆく夏に命もえつき鳴く蝉に秋の虫の音唱和するなり
「唱和」
風渡り虫の音きこゆ雨後の庭人夢見らむ月の光に
風吹けば光おきてし庭原にあらはれわたる秋の色かな
天降るかみよの光おきそふる草も閑けき虫の声かな
風たちて凪ぐ庭草のしらつゆもおきてはきゆるゆめのあとさき
筑紫にて磨く月影冴え冴えて音に聞こゆる美保の浦波
「とんぼ」
あかねさす赤蜻蛉の交わりて飛びたるに我何思ひけむ
あかとうばういつかおひてしひもあれどちにはおいてしおのがかげかな
ひとつふたつ数のうちにぞ知られける秋津が原に通ふそよ風
実りたる黄金の稲穂きらめいてあかねトンボがとまりてゆれて
海原に時の動くを見てしかな蜜柑の山に揺れるざんばら
こがねなみゆくらゆくらとあかねさしあきつしまなみかくれゆくかな
「天地始粛」
軒端の竿に揺れける夏衣夏の名残の朝顔は咲き
いつしかと秋きたるらし頬なでる朝吹く風は昨日にも似ず
いととしや年も半ばを過ぎにける鱗の雲が流るをしりて
朝夕の涼しき風に夏すぎて秋来るらし鱗雲かな
「綿柎開」
秋立ちて旅にいでしや夏の雲畑の中に休むもありて
秋たちてゆらぐ綿の花コットンボール紡ぐ糸巻カラカラカラと
「さねさしの相模海原」
今もなほ己が天地を訪ひ来れば武衛も渡りしさねさしの海
その線は君への想いきらめいて水平線に流れ星一つ
「夏の終り」
口笛きて夢見し人の影もたえ只広小路に秋風の吹く
畑作すれど実をとりなむやとおもはるれどかひもなき
ことのはのつねよりおほくつもりてはふみわけてとふひともなきかな
夏終わりながれうたかた笹船に想いを乗せてとどけましょう
秋風に騒ぐ湊に笹得ては増す酔情に渡す瀬も無し
空蝉よ枯れるまで鳴けあぢきなしせめてこの世の形見なるらむ

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