十三番「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」(陽成院)~ 百人一首の物語 ~

十三番「筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる」(陽成院)

ようやく恋歌らしい恋歌が登場、陽成院の一首だ。採られたのは後撰集、詞書きには「釣殿の皇女につかはしける」とありラブレター代わりの歌だとわかる。単純明快かつ大言壮語のアプローチが功を奏したのだろう、陽成は見事皇女のハートを射止めた。

なかなかのやり手かと思いきや、勅撰集に採られたのは僅かこの一首のみ。確かによくよく見れば「筑波嶺の峰」と歌病を犯し、万葉集の東歌※の域をでない無粋な歌にも見える。実は陽成、若干九歳にして践祚するも宮中における乱暴狼藉が原因で十六歳には廃位となった。彼はけっして風流な優男などではなく、歌のように勇壮実直な人であったことは想像に難くない。

しかしこのようなタイプは政治において大抵損をする。当時の権力者は摂政基経、陽成の退位に至る世論形成は陽成とその母高子と不和であった基経の仕業であったとされる。それはまだしも次の天皇を自身の親王に譲ることも叶わず、仁明の皇子である御年五十五歳であった光孝に奪われてしまった。ここに文徳、清和、陽成と続いた皇統は絶え、光孝そして宇多、醍醐に連なる血脈に移るのである。なんという悲劇!

これより百人一首は新章「失意に乱れる純血の貴公子」に突入する。

※「筑波嶺の岩もとどろに落つる水世にもたゆらにわが思はなくに」(作者不明)

(書き手:和歌DJうっちー)

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