和歌と短歌の違い「歌の心」編でお分かりいただけたように、和歌には厳格なルールがあり短歌にそんなものはありません。
→関連記事「和歌と短歌の違い ~歌の心編~

これらの違いは、その表現手段である「ことば」にも存在します。
今回も和歌と短歌の実作を比較して、その違いを知りましょう。

(一)「園児らと たいさんぼくを 植ゑにけり 地震ゆりし島の 春ふかみつつ」
(二)「君がため 春の野に出て 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」

上の2首はいずれも「春」をテーマとした御製歌です。
(一)は晩春のころ、地震の被災地で園児たちと泰山木(タイサンボク)をお植えになられた思い出を歌われたもの、
(二)は早春のころ、恋人のために若菜をお摘みになった折、袖に雪が降ってきた情景を歌われたものです。

どちらが和歌で短歌か分かりますか?

はい、正解です。
(一)が短歌で、(二)が和歌ですね。

(一)は平成14年の歌会始めで今上天皇が詠まれた歌、(二)は古今和歌集にも採られた光孝天皇の歌です。
短歌であれば泰山木(タイサンボク)に限らず、「チューリップ」でも「ひまわり」でも構いません。ルール不問ですから当然ですね。
※これで分かるのは、宮内庁主催の伝統的な歌会始めでも、本来的な和歌は詠まれていないということです
→「宮内庁サイト 歌会始お題一覧

ただ和歌ではそうはいきません。
「春」というお題であれば、詠める情景(ことば)が決まっているのです。

例えば(二)のように早春の情景であれば「梅」「雪」「霞」「若菜」「うぐいす」「青柳」などに限られます。
さらに、「雪」とくれば「降る」、「霞」とくれば「立つ」、「うぐいす」とくれば「鳴く」とった関連して詠むべきことばも自ずと決まってきます。これらを縁語といいます。
→関連記事「和歌の入門教室 縁語

つまり和歌の「ことば」には決めれた「設定(ルール)」があり、それを無視して詠むことは原則的にNGなのです。
このように単なることばの意味を超えて、特別な設定を包含・暗示させることばを「歌ことば」といいます。

「歌ことば」によるルールは、作歌における制約となり一見不都合に思えます。
しかし! 実際の和歌ではこの「歌ことば」がとてつもない威力を発揮するのです。

例えばこの歌。
「うちしめり あやめぞ香る ほとときす なくや五月の 雨の夕暮れ」(藤原良経)

五月の雨に濡れたあやめが香る。ほととぎすが鳴いている。
という歌です。だからなに? って感じですよね。

ただ「歌ことば」のルールを理解していると、この歌が沈痛なエレジーに変貌します。

歌ことばの「あやめ」は邪気を祓うほどの強烈な匂いを暗示。これが五月雨に湿ってむせ返るような不快感を表し、そこへさらに「ほととぎす」が鳴く。
実は「ほととぎす」、歌ことばでは「夏の到来を告げる」とともに「恋心をエスカレートさせる」という設定があるのです。
→関連記事「夏を独占! ほととぎすの魅力

つまりこの歌は「初夏の情景歌」なんて単純なものではなく、「慕えども叶わない、けれども愛しさは増していく」という鬱々な慕情を詠んだ歌なのです。
三十一という文字数の中で、これほど複雑な情景・心象を詠めるのは「歌ことば」があってこそです。

和歌と短歌における「ことば」の違い、お分かり頂けたでしょうか。
「和歌を学ぶ」ということの本質は古語や修辞法を学ぶことではなく、この「歌ことば」を学ぶことであるといって過言でないでしょう。
そして、それはそのまま「日本文化の深淵」を学ぶことになります。
なぜなら「源氏物語」などの物語や能などの芸能、書画に至るまで、その成立の背景に「歌ことば」の設定があるのです。

和歌に限らず「日本文化を楽しみたい♪」というのであれば、「歌ことば」の知識は必須です!
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→「わくわく和歌ワークショップ

(書き手:内田かつひろ)

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