「妄想女子の恋歌日記」~恋終わりの12月の巻~


●12月9日
時雨の夜、突然彼から電話があった

でもお互いに交わす言葉もなくて、

聞こえるのは

傘を持たない私に降る

冷たい雨音だけ

分かってるよ

「別れよう」って言いたいんでしょ?

でも聞きたくない

心変わりしたあなたの言葉なんて

782「今はとて わが身時雨に ふりぬれば ことのはさへに うつろひにけり」(小野小町)

●12月10日
昨夜の電話

私の方から切っちゃった。

つらすぎて、悲しすぎて

思い出しただけで、心が消えるよう

今朝は初霜がきれい

あ~あ、なんで起きちゃったんだろう

ずっと眠ったままでよかったのに

643「けさはしも おきけむ方も しらざりつ 思ひいづるぞ 消えてかなしき」(大江千里)

●12月24日
気が狂いそう…
だって、どうしていいか分かんないんだもの

彼は結局、別れの言葉を口にしない
姑息で卑怯なやつ

でもやっぱり好き

野焼きで次の春を待つように、私が冬枯れの野原だったら
はずかしくても、みすぼらしくても
全部忘れて、ずっと待ってるのに

791「冬がれの 野辺とわが身を 思ひせば もえても春を またましものを」(伊勢)

つづく…
(書き手:歌僧 内田圓学)

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