和歌の入門教室(修辞法)「掛詞」

「掛詞」は同音異義になる景物と心情の言葉を掛け合わせて歌に詠む技法です。
例えば「あき」に(秋)と(飽き)を、「まつ」に(松)と(待つ)を掛けるといった感じです。まあ要するに「ダジャレ」ですね。

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「掛詞」は、和歌の言葉遊びの面が最も分かりやすく表されるていますが、使い方には注意が必要です。ダジャレも度が過ぎると「オヤジギャグ」と失笑されるように…
それでは掛詞が見事に使われている歌例をご紹介しましょう。

「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」(小野小町)

「ふる」が(降る)と(経る)に、「ながめ」が(長雨)と(眺め)に掛けられています。
物思いに耽っている間に、花の色は虚しく失せてしまった。という表意の裏で、春の陰鬱な長雨の風景が浮かび上がります。
掛詞を2つ使いながらも、歌の表と裏が見事に協和しています。歌の作者が絶世の美女と噂された小野小町というのもまた、この歌を魅力的なものにしていますね。

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ちなみに現代の掛詞にも高度なものがあります。それはJR東日本が発行している「Suica」です。Suicaの名称は「Super Urban Intelligent CArd」の略称に由来し、「スイスイ行けるICカード」の意味合いも持たせつつ、かつ果実のスイカと語呂合わせしています。つまり1音に3つの意味を(無理やり)掛け合わせているのです!

Suicaを東の横綱とすれば、西の横綱はJR西日本が発行している「ICOCA」でしょうか。ICOCAは 「IC Operating CArd」の略称と関西弁の「行こか」の2つの意味合いが掛けられています、もはやダジャレ大合戦です。

話が脱線してしまいましたね。
では和歌でよく使われる掛詞をご紹介しましょう。

代表的な掛詞

あき 秋、飽き 「あき風に 山のこの葉の 移ろへば 人の心も いかがとぞ思ふ」(素性法師)
あふさか 逢坂、逢ふ 「かつ越えて 別れもゆくか あふ坂は 人だのめなる 名にこそありけれ」(紀貫之)
いなば 因幡、往なば 「たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」(納言行平)
うき 浮き、憂き 「水の泡の 消えてうき身と いひながら 流れて猶も 頼まるるかな」(紀友則)
うじ 宇治、憂し 「わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり」(喜撰法師)
うらみ 浦見、恨み 「逢ふ事の なきさにしよる 浪なれば うらみてのみぞ 立帰りける」(在原元方)
おく 置く、起く 「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへず消ぬべし」(素性法師)
かり 刈り、仮、雁 「難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」(皇嘉門院)
かる 枯る、離る、借る 「山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人めも草も かれぬと思へば」(源宗于)
きく 菊、聞く 「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへず消ぬべし」(素性法師)
きぬぎぬ 衣衣、後朝 「東雲の ほがらほがらと 明けゆけば おのがきぬぎぬ なるぞ悲しき」(よみ人しらず)
しのぶ しのぶ草、忍ぶ 「君しのぶ 草にやつるる 古里は まつ虫の音ぞ 悲しかりける」(よみ人しらず)
しみ 染み、凍み 「笹の葉に おく初霜の 夜をさむみ しみはつくとも 色にいでめや」(凡河内躬恒)
すみ 澄み、住み 「白河の 知らずともいはじ そこ清み 流れて世世に すまむと思へば」(平貞文)
たより 便り、頼り 「たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり」(在原元方)
つつみ 堤、包み 「思へども 人めつつみの 高ければ 河と見なから えこそ渡らね」(よみ人しらず)
つま 褄、妻 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
ながめ 長雨、眺め 「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」(小野小町)
なかれ 流れ、泣かれ 「山高み した行く水の したにのみ なかれてこひむ こひはしぬとも」(よみ人しらず)
根、音、子、寝 「風ふけば 浪打つ岸の 松なれや ねにあらはれて なきぬべらなり」(よみひ)
はる 春、張る、晴る 「霞たち このめもはるの 雪ふれば 花なき里も 花ぞちりける」(紀貫之)
火、思ひ、恋ひ 「人知れぬ 思ひをつねに するがなる 富士の山こそ わが身なりけれ」(よみ人しらず)
ひも 紐、日も 「唐衣 ひもゆふぐれに なる時は 返す返すぞ 人は恋しき」(よみ人しらず)
ふみ 踏み、文 「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立」(小式部内侍)
ふる 降る、経る、振る、古る 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに」(小野小町)
まつ 松、待つ 「立ち別れ いなばの山の 嶺におふる まつとし聞かば 今かへりこむ」(中納言行平)
みおつくし 澪標、身を尽くし 「わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても あはむとぞ思ふ」(元良親王)
みるめ 海松布、見る目 「しきたへの 枕の下に 海はあれど 人をみるめは 生ひずぞ有りける」(紀友則)
ゆふ 結ふ、夕、木綿襷 「唐衣 ひもゆふぐれに なる時は 返す返すぞ 人はこひしき」(よみ人しらず)
節、夜、世、代 「難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき」(皇嘉門院)

ちなみに、古今集の四季歌(春、夏、秋、冬)および恋歌(一、二、三、四、五)の約800首のうち、頻出の掛詞は以下になります。

〇5首以上
・うら(浦、恨)
・かる(枯る、離る)
・なかれ(流れ、泣かれ)
・なき(無き、泣き)
・まつ(松、待つ)
・みるめ(海松目、見る目)

〇10首以上
・あき(秋、飽き)
・おもひ(火、思ひ)

掛詞を見ただけでも、忍び泣きの男女が目に浮かびますね。。

では最後に問題です! 下の和歌には、いくつの掛詞があるでしょうか?
769「ひとりのみ ながめふるやの つまなれば 人をしのぶの 草ぞ生ひける」(貞登)

正解は…
ながめ(長雨、眺め)、ふる(降る、古る)、つま(端、妻)、しのぶ(しのぶ草、忍ぶ)の計4つです。風景と心情の意味がそれぞれ成立しつつ内容が調和しています、凄いですね。

では有名なこの歌の掛詞も探してみましょう。
「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)

言わずと知れた、伊勢物語第九段「東下り」の歌です。正解は…
き(着、来)、なれ(馴れ、慣れ)、つま(褄、妻)、はる(張る、遥る)とこちらも4つ、「着物」の縁語が全て掛詞になっています。

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個人的には貞登の方がいい歌だと思いますが、いずれにしても技巧と情趣は二律背反、掛詞が増えるほど何が言いたいのか分からなくなります。オヤジギャグと掛詞、どちらもほどほどにしておきましょう。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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