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梅雨真っ只中。
今日もシトシトと雨が降っています。
雨の日が好き、という人は少ないかもしれませんね。

でもこの雨、平安歌人たちは大の大好きです!

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古今和歌集の歌で「雨」および「雨冠」がついた「雲」、「霞」、「霧」、「露」、「雫」、「雪」、「霜」、
これらが詠まれた歌を数えてみると、なんと約220首もあるのです。これは全体(1,100首)の2割にあたります。
雨への関心が異様に高かったことが分かりますね。

平安歌人たちはなぜこんなにも雨の叙景を好んだのでしょう?
それは自分たちの理想美を表現するのに、うってつけの素材だったからです。

理想美のひとつが「おぼろの美」。
102「春霞 色のちくさに 見えつるは たなびく山の 花のかげかも」(藤原興風)
それは目に見えないけれども、霞が色々に染まって分かる。山桜の美しさよ。

479「山ざくら 霞のまより ほのかにも 見てし人こそ 恋しかりけれ」(紀貫之)
わずかに見えたか見えないか。でも分かりますあなたの美しさは…

999「人しれず 思ふ心は 春霞 たち出でて君が 目にも見えなむ」
人知れず忍んで想っています。でも本当は知ってほしい私の恋心。

なにより直接的な表現を嫌った平安歌人。
彼らは「花」だけでなく自らの「思い」まで、曖昧模糊とした世界に覆い隠すことが美であると捉えました。

もうひとつは「涙の美」です。
639「あけぬとて かへる道には こきたれて 雨も涙も 降りそぼちつつ」(藤原敏行)
夜が明けて、あなた別れた雨の帰り道。私はこきたれて、つまりへこみまくって涙をそぼつ…
雨だか涙なんだか分からないくらいぐっしょり泣き濡れています。

731「陽炎の それかあらぬか 春雨の ふるひとなれば 袖ぞ濡れぬる」(よみ人知らず)
陽炎のようにはっきりしないあなた。
春雨が降るように古人(過去の人)になってしまった私の袖は、涙で濡れています。

763「わが袖に まだき時雨の ふりぬるは 君が心に 秋や来ぬぬらむ」(よみ人しらず)
私の袖は時雨が降ったように涙でびしょ濡れ。
きっとこれは、あなたが私に秋ならぬ飽きたからでしょうね。

雨は涙の見立てとなり、男も女も泣きじゃくるのです。
今でこそ、人前でまして男が泣くなんて恥ずかしいことのように思われていますが、平安歌人たちはそうではありません。
むしろ泣き様とは、人が体現できる最高に美しい仕草だと捉えていたのです。

言いたいことも言わないで、一人忍んで泣き濡れる。
でもこれが美しい… だなんて!
現代の価値観からは、ちょっと理解に苦しむ陰鬱さです。
平安歌人たちはなぜこんなに湿っぽい世界が好きになっちゃたのでしょう?

実はこの問い、問い自体が間違っているのです。
明治生まれの哲学者、和辻哲朗は著書にこんな一文を残しています。
—–
人間の存在は歴史的・風土的なる特殊構造を持っている。この特殊性は風土の有限性による風土的類型によって顕著に示される。もとよりこの風土は歴史的風土であるゆえに、風土の類型は同時に歴史の類型である。自分はモンスーン地域における人間の存在の仕方を「モンスーン的」と名づけた。我々の国民もその特殊な存在の仕方においてはまさにモンスーン的である。すなわち受容的、忍従的である。
(和辻哲郎「風土」)
—–

平安歌人は先だって美の理想があり、結果として雨の叙景を好んだのではなく、
「モンスーン的」言い換えれば「湿潤」なる日本の気候が、その好み・感性を陰欝なものを好むように形作った、ということなのです。

なるほど、であれば現代日本。
温暖化傾向にあるとはいえ、気候は平安時代と大きく変わっていないはず。
本当は私たちも雨が大好きであり、男女問わず艶やかに泣くことだってできるのです。
恥ずかしがっちゃいけません。雨と一緒に思いきり泣いて詠っちゃいましょう!
これぞ詩吟・イン・ザ・レイン♪

(書き手:内田かつひろ)

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