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西行は平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した歌人です。
貴族が衰退し、武家が台頭してくるこの時代は、和歌が文化の中心として最後かつ最大の輝きを放っていた時代です。
その輝かしい時代に編纂された勅撰集「千載和歌集」には西行の歌が18首、「新古今和歌集」にはなんと94首も採られています。ちなみに新古今集の最多入選歌人は西行です。まさに時世一の歌人であったことが伺い知れます。
また「西行物語」に描かれた数寄の生き方は、松尾芭蕉などの後の歌人達に大きな影響を与えました。

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と、人気実力ともに最高峰の歌人ともいえるこの西行ですが、紀貫之や藤原定家らと違って、とくに何かを成し遂げた人でもありません。
もともとは北面の武士であった西行(佐藤義清)は、若い時早々に仏道へ進みました。しかし決まった宗派に属したようにも見えず、それほど信心深くもなさそうです。
生涯フラフラしていたような放蕩の歌人のどこに、定家や芭蕉は魅力を感じたのでしょうか?

西行は家柄も良く、武芸にも秀でていました。さらに容姿端麗で和歌も出来るとあれば、宮中の女たちにはモテまくったでしょうし、天上の高見も望めたはずです。
それにもかかわらず、現状を捨て自由に歌う道を選んだ。

実はこの「自由」こそが、西行最大の魅力なのです。

当時、俗世を疎んじた貴族達が自由の身になるには、出家という手段をとるしかありませんでした。これは西行も同じです。
やんごとなき貴族の出家といえば、近接の由緒ある寺で受戒し、姿形は僧であっても社会との結びつきは強いまま。出世レースから外れたことを宣言するために使われることも多々ありました。いわば名ばかり出家といったようなものですね。

西行は違います。
彼は社会からの完全な自由を求め、恵まれた官職、家柄、妻子これら全てを捨てました。
その覚悟たるや激烈を極めるものだったでしょう。

世を捨てた西行は高野山に草庵を結び、生涯隠遁の生活を送りました。
自由になるために自由と戦った、それが西行の本当の姿です。
全ては歌の世界に没頭するため…

と、ここまで聞くと徹底的な理想主義者で近寄り難いように思えますが、それも少し違うのが西行です。
実は西行、出家してからも武士時代にやり取りがあった女房たちとの交流を続けています。
仏道に女性は禁物なのでは!? と詮索は不問です。
それさえも西行は自由なのです。

また西行は東大寺の勧進として、鎌倉の源頼朝や遠縁である奥州の藤原秀衡に会いに行ったりしています。
政治や社会、仏道にも縛られず自らの関心、理想に従って生きた人間。これが西行という人なのであり、この究極の「数寄者」に、芭蕉たち後世の数寄者は憧れ、惚れ込んだのです。

社会に縛られまくっている窮屈な現代人にとっても、本当に魅力的な人物ですね。

さて西行の歌の特長ですが、それはなんと言っても「自らの足で得た情景を詠む」ところにあります。
一般的な平安歌人は都からほとんど離れることはありませんから、その歌は既存の知識に大きく頼っていました。
西行は違います。
自ら歌枕へ出向き、そこで直接感じたことを歌にしたのです。
こんなこと、自由人西行にしか出来ません。

そんな魅力的な西行の歌を歌集「山家集」から厳選しました。
今回は西行の「桜狂い」が伝わる歌を十首ご紹介します。

西行の桜十首(「山家集」より)

(一)「おぼつかな いづれの山の 峰よりか またるる花の 咲きはじむらん」(西行)
どこの山から咲き始めたか? きょろきょろとあたりの山を見回す西行が目に浮かびます。

(二)「吉野山 こずゑの花を 見し日より 心は身にも そはず成りにき」(西行)
梢の僅かな花を見て、桜狂いのスイッチが入ったようです。

(三)「花散らで 月はくもらぬ 夜なりせば 物をおもはぬ わが身ならまし」(西行)
西行にとって桜と月さえあれば満ちたるのです。

(四)「願わくば 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ」(西行)
西行の美学が端的に表現された超有名な歌です。この歌単体だと「なるほどね」という感じですが、「山家集」の大量の桜歌(「春」173首の内、桜歌は102首を占める)の優雅な世界に「春死なむ」と唐突に現れるので、ビクッとします。

(五)「花にそむ 心のいかで 残りけん 捨てはてきと 思ふ我か身に」(西行)
いくら仏道に進んだとはいえ、花への思いは断ち切れません。

(六)「裾野焼く 煙はぞ春は 吉野山 花をへだつる 霞なりける」(西行)
「裾野の野焼き」なんて風景は、実際に足を運んだ西行ならではの視点です。

(七)「見る人に 花も昔を 思い出て 恋しかるへし 雨にしをるる」(西行)
ここで歌われる「花」はあの「待賢門院」のことだと言われています。西行伝説の最大の謎である、待賢門院との恋はやはりあったのでしょうね。

(八)「惜しまれぬ 身だにもよには あるものを あなあやにくの 花の心や」(西行)
どうもがいても、桜は西行から離れません。憎らしいほどに。

(九)「雪とみえて 風に桜の 乱れるは 花のかさ着る 春の夜の月」(西行)
定家ばりの印象詩も素敵です。

(十)「春風の 花を散らすと 見る夢は さめても胸の 騒ぐなりけり」(西行)
起きても寝ても、寝ても起きても、桜のことばかり。まさに桜狂いとは西行のことです。

(書き手:内田かつひろ)

→一覧「一人十首の歌人列伝

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