和歌には共通のあるテーマが内包されています。

いずれも百人一首に採られた有名な歌、
84「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ」(紀友則)
113「花の色は うつりにけりな いたづらに わか身世にふる なかめせしまに」(小野小町)

これらが単純に情景を詠んだだけの歌だとは、だれも思わないでしょう。
常ならぬ世に嘆き苦しむ孤独な人間、つまり「絶望」の姿がそこに見えるはずです。

そう、和歌には多かれ少なかれ「絶望」というものが歌われているのです。

絶望は「古今和歌集」と「新古今和歌集」では立ち向かい方が異なります。
この違いこそが、古今調と新古今調とを分ける重要な要素となっています。

例えば恋に絶望するとどうなるのか?
まずは古今和歌集から見てみましょう。
527「涙河 枕なかるる うきねには 夢もさたかに 見えずぞありける」(よみ人しらす)
599「白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に うつろひにけり」(紀貫之)

幾夜泣けども尽きぬ涙は河となり、夢さえも確かに見えないほど。
そして涙はやがて紅となる。
紅はもちろん「血」の暗喩です。
真珠のような涙が血の色に染まるとなれば、おのずと「死」へと連想が広がるのは当然でしょう。

698「恋しとは たが名づけけむ ことならむ 死ぬとぞただに 言ふべかりける」(清原深養父)

このように絶望に対して「激情で対峙」するのが最初の勅撰和歌集、古今和歌集の美なのです。
以前、「古今和歌集美の系譜 ~紀貫之からX JAPANへ~」で書いたように、絶望に「激情で対峙」する様式は現代のヴィジュアル系に繋がっているというのが持論です。

この「激情で対峙」ですが、その裏には「この辛さを分かってほしい!」という共感の念が含まれています。
ですからある種「分かりやすい絶望」ともいえます。

一方「新古今和調」になると、絶望にどのように立ち向かっているのでしょうか。

「たそがれに もの思ひをれば 我が宿の 荻の葉そよぎ 秋風ぞ吹く」
「ながめやる 心もたえぬ わたのはら 八重のしほぢの 秋の夕暮」
「萩の花 くれぐれまでも ありつるが 月いでて見るに なきがはかなさ」

孤独に耽っているのは同じです。
ですがそこにいる人間に「激情」は見当たりません。
思い悩みつつも、それを受け入れあくまでも「穏やか」に情景を歌っている。

これは鎌倉幕府三代将軍「源実朝」の歌です。
彼は肩書きこそ将軍ではありながら、実権は北条義時と母である政子に握られていました。
そして最後は鶴岡八幡宮で暗殺されるという、悲劇的な人生をおくった人物。
おそらく絶望の真っ只中を生きたのだと思います。
だから絶望は当たり前のこととなり、「絶望していますけどなにか?」という恐ろしい境地に立っている。

正岡子規は「歌よみに与ふる書」で、万葉以来、実朝だけが一流の歌詠みであると語っています。
それはおおからな詠みぶりつまり「万葉ぶり」であることが所以とし、以下の歌を例に挙げています。
「大海の 磯もとどろに 寄する波 割れて砕けて 裂けて散るかも」

実朝の境遇をおもんばかれば、実情は子規の見立てとずいぶん異なることが分かります。

新古今和歌集の時代は、このような歌が少なくありません。
例えば藤原定家の
「年も経ぬ 祈る契りは 初瀬山 尾上の鐘の よその夕暮」
「見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦のとまやの 秋の夕暮れ」

このように、平気で「何もない」「自分とは関係ない」と突っぱねてしまう。
絶望に対して共感は一切求めていません。
人生に横たわる当然の存在として受け入れています。

絶望に「激情で対峙」する古今調の現代版を「X JAPAN」とすれば、
当然として「受け入れる」新古今調の現代版は、さしずめ「フィッシュマンズ」です。

フィッシュマンズ 『すばらしくてNICE CHOICE』
「目的は何もしないでいること
 そっと運命に出会い運命に笑う」

ということを普通に言ってしまうのが「フィッシュマンズ」です。

絶望に対して共感や救いを求めていない。
むしろそれは当たり前のものとして受け入れ、涙を流すより笑ってしまう。

それゆえ外部からは「分かりにくい」絶望といえます。
ただこの「分かりにくさを表現する」ことで救われようとしているように思えます。

「X JAPAN」と「フィッシュマンズ」、
「古今和歌集」と「新古今和歌集」では絶望への対峙方法が全く異なることが分かりました。

絶望が「歌を育んだ」ともいえますが、反対に絶望を「癒すために歌が生まれた」のかもしれません。
歌という表現によって「救われたい」という気持ちがあることは共通しているのですから。

(書き手:内田かつひろ)
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