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春の花といえば? と問われれば、多くの人が「桜」、次点で「梅」を挙げることでしょう。

では秋の花といえば?
「萩」や「女郎花」、「尾花(すすき)」など秋の七草もあれば、重陽の節句に欠かせない「菊」の花もありますね。
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でもやはり一番は「紅葉(もみぢ)」ではないでしょうか。
※今コラムでは「紅葉」を様々な樹木の紅葉(こうよう)の総称として扱います

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春の「桜」と秋の「紅葉」。
春秋の花の王様は、いずれも「散る姿」が愛でられる点で共通しています。

71「残りなく 散るぞめでたき 桜花 ありて世中 はてのうければ」(よみ人しらず)
297「見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の 錦なりけり」(紀貫之)

ただ、桜が散り様の美一辺倒に対して、紅葉はさまざまな姿が愛でられます。
拾遺511「春はただ 花のひとへに 咲くばかり もののあはれは 秋ぞまされる」(よみ人しらず)

もののあわれ(情趣)は秋が勝る!
今回は紅葉を愛でるエトセトラをご紹介しましょう。

紅葉とは秋露や時雨まれに雁の涙で色づきます。
258「秋の夜の 露をは露と 置きながら 雁の涙や 野辺を染むらむ」(壬生忠岑)
259「秋の露 いろいろごとに 置けばこそ 山の木の葉の 千草なるらめ」(よみ人しらず)
260「白露も 時雨もいたく もる山は 下葉残らす 色づきにけり」(紀貫之)
※紅葉(こうよう)とは、気温が低くなると葉に含まれる色素のうち、緑色の色素(クロロフィル)が分解され、黄色の色素(カロチノイド)が目立ってくる現象… なんて野暮を言ったら嫌われます。

その美しさは、夜空の月さえも照明器具に従えます。
281「佐保山の ははそのもみぢ 散りぬべみ 夜さへ見よと てらす月影」(よみ人しらず)
289「秋の月 山辺さやかに 照らせるは 落つるもみぢの 数を見よとか」(よみ人しらず)
※最近では春の桜だけでなく、紅葉も夜のライトアップがされるようになりました。しかしそれらを照らずのは強烈な人工照明。やはり花のライトアップは月明かりに尽きます。

いや、紅葉こそが月の光源だったのです。
194「久方の 月の桂も 秋はなほ もみぢすればや 照りまさるらむ」(壬生忠岑)
※「月の桂」とは古代中国の伝説で、月にあるという巨大な桂の木のこと、いやあスケールがでかい。ちなみに月桂樹(ローリエ)とは無関係です。

それでも変わらぬ松の色。でもまとわりつく蔦が色を添えます。
新538「松に這う まさの葉かずら 散りにけり と山の秋は 風すさぶらん」(西行)

紅葉が並木に落ちれば、それはさながらレッドカーペット。
288「踏みわけて さらにやとはむ もみぢ葉の ふり隠してし 道とみながら」(よみ人しらず)

風に舞えば秋風を幾色に染め、
290「吹く風の 色のちくさに 見えつるは 秋の木の葉の 散れはなりけり」(よみ人しらず)

川に落ちれば紅の浪となり、
293「もみぢ葉の ながれてとまる みなとには 紅深き 浪や立つらむ」(素性法師)
294「ちはやふる 神世もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは」(在原業平)

人にまといつけば鮮やかな絹織物になるのです。
袿の「重ね色目」を楽しんだ平安貴族。ちくさに染まる紅葉をそれに例えるのは必然ですね。
296「神なびの 三室の山を 秋ゆけば 錦たちきる 心地こそすれ」(壬生忠峯)
297「見る人も なくて散りぬる おく山の もみぢは夜の 錦なりけり」(紀貫之)

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結局のところ、紅葉とは秋そのものだったのです。
302「もみぢ葉の 流れさりせば 竜田川 水の秋をは 誰かしらまし」(是則)
311「年ごとに もみぢ葉流す 竜田川 みなとや秋の とまりなるらむ」(紀貫之)
紅葉が留まっているのを見て、「ここが秋の終点だろうか」なんて素敵すぎますよ!

このように紅葉は多様な趣が愛されるのです。
深まる秋の色のようにとりどりに。

さて、この紅葉のエトセトラが集約されたかのような歌があります。
童謡「紅葉」です。
—–
秋の夕日に照る山もみじ
濃いも薄いも数ある中に
松をいろどる楓や蔦は
山のふもとの裾模樣

溪の流に散り浮くもみじ
波にゆられて はなれて寄って
赤や黄色の色さまざまに
水の上にも織る錦
(詞:高野辰之)
—–

万葉、平安とんで明治そして現代まで…
日本人の美意識は連綿と受け継がれているのですね。
こんなことを知ると素直に感動してしまい、
気持ちまで高揚(こうよう)しちゃいますよ~

(書き手:内田かつひろ)

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