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源実朝は鎌倉幕府の第三代征夷大将軍。
京の公卿、坊門信清の娘である信子を正室に迎え、武士として初めて右大臣に上りました。
ちなみに平清盛は太政大臣という太政官の最高職に就きましたが、太政大臣は名誉職のようなもので実権はありませんでした。実朝が就いた右大臣という官職は太政官において左大臣に次ぐ実権ある高位です、本来は。
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父は源頼朝、母は北条政子と武家のサラブレッドのような人ですが、イメージに反して和歌ひいては京の文化にずっと憧れを抱き続けた文学青年といえます。

実朝のすごいところは憧れを憧れで終わらせなかったところです。
鎌倉という東国の田舎にあって京への慕情を募らせながら和歌を作り、これを師と仰ぐ藤原定家に添削してもらいました。
これは「金槐和歌集」という家集に結実します。
驚くべきは実朝、この時若干22歳! 定家選歌の「勅撰和歌集」では92首が採られるほど、実朝は一流歌人として大成するのですが、早熟の天才であったことが分かります。

ちなみに実朝の歌風は、武人らしくおおらかで素直な詠みぶり「益荒男ぶり」なんて評され、賀茂真淵や正岡子規などの明治の歌人達にも熱烈なファンがいます。
「実朝といふ人は(中略)とにかくに第一流の歌人と存候。(中略)実に畏るべく尊むべく、覚えず膝を屈するの思ひ有之候。」
「歌よみに与ふる書」(正岡子規)

さて、実朝は臨済宗の開祖で日本に茶文化を伝えた栄西とも交流を持っていました。
源実朝は京都と鎌倉、貴族と武士との橋渡しをなした、極めて稀有な人だったのです。

ただ、こんな文化的なことに耽っていられたのも実質の権力が執権を握る北条氏にあったからでしょう。
初代将軍源頼朝の死後、二代目を継いだ実朝の兄、頼家は北条氏に暗殺されたといいます。
もしかしたら実朝は「いつかは自分も…」と不信を募らせていたのではないでしょうか。
なぜなら、そのおおらかな歌の裏に破滅的な感情が見え隠れしているからです。
唯一のよりどころである「鎌倉の海」にぶちまけるかのように。

ご承知のとおり、実朝は鶴岡八幡宮で甥に暗殺されてしまいます。右大臣に就いた翌年の事です。
これによって源氏将軍は絶えてしまいました。

今回の一人十首は、実朝青春の歌集「金槐和歌集」から、海にぶつけた感情の歌を中心にご紹介します。

源実朝の十首(「金槐和歌集」より)

(一)「かもめゐる 荒磯の洲崎 潮みちて 隠ろひゆけば まさるわか恋」(源実朝)
歌中に「かもめ」が出てきて、実朝ワールド全開です!

(二)「わたつ海の 中にむかひて いづる湯の 伊豆のお山と むべもいひけり」(源実朝)
「出づ」と「伊豆」をかけるなんて、大胆です。

(三)「箱根路を わが越えくれは 伊豆の海や 沖の小島に 波のよるみゆ」(源実朝)
ただ島に波が寄せているのを詠んだ、きわめてシンプルな歌です。

(四)「宮柱 ふとしきたてて よろづ世に いまぞさかえむ 鎌倉の里」(源実朝)
関東には歌枕が少ないです。ですから関東在住の人(私も含め)にとっては和歌に親しむ機会が少ないです。しかし、我々には実朝が居ます! 鎌倉へ歌枕を見に行きましょう。

(五)「鶴岡 あふぎてみれば 嶺の松 こずゑはるかに 雪ぞつもれる」(源実朝)
実朝は鶴岡八幡宮で暗殺されてしまいます。馴染み深いこの鶴岡で。

(六)「世の中は 常にもがもな 渚こぐ 海人の小舟の 綱手かなしも」(源実朝)
「世の中がずっとこうだったらなぁ」という歌です。これは百人一首にもとられた歌、選者であり歌の師である定家は、実朝の気持ちを見透かしていたのかもしれません。

(七)「山はさけ 海はあせなむ 世なりとも 君にふた心 わがあらめやも」(源実朝)
「山が裂けて海が干上がっても」とはおおらかを通り越して、強い情念を感じます。

(八)「おほ海の 磯もとどろに よる波の われてくだけて さけて散るかも」(源実朝)
海を見て「割れて、砕けて、裂けて、散る」と詠む。この時実朝はどんな心境だったのでしょうか? 私には絶望しか感じられません(涙

(九)「聞きてしも 驚くべきに あらねども はかなき夢の 世にこそありけれ」(源実朝)
こには無常の世を達観した実朝がいます。

(十)「いとほしや 見るに涙も とどまらず 親もなき子の 母を尋ぬる」(源実朝)
両親を亡くして道端で泣く子に心の底から同情を寄せる。それが鎌倉は右大臣実朝なのです。

(書き手:内田かつひろ)

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