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春を代表する花、梅と桜。
これらの最大の違いってなんだと思います?

おそらく「花弁の形」または「花の付き方(花柄の有無)」なんて答える方が大半だと思います。
間違ってはいませんが、和歌的にいうとそれは違いになりません。

和歌的な桜と梅の最大の違い、
それは…

開花時期(期間)なのです!

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桜は春の盛りの頃、あっという間に満開になり、あっという間に散ってしまいます。
ソメイヨシノという単一品種が跋扈する現代ではそれが特に顕著ですね。
→関連記事「桜の愛され方

一方の梅。梅の花は咲くのも散るのものんびり、品種の多様さもあって1月から4月まで長きにわたって花が楽しめます。
和歌で梅と桜は、まさにこの違いを捉えた歌われ方がなされています。

例えば桜歌、
63「今日来ずは 明日は雪とぞ 降りなまし 消えずはありとも 花と見ましや」(在原業平)
桜の盛りとなったが、今日来なかったら明日は雪のように散ってしまうけどいいのかい?

こんな感じで、桜歌の大半が花を愛でる間もなく散り様を惜しむことに終始される一方、
梅歌は時間を掛けて折々の景物と交わり、多様な美の情景が詠まれます。

ですから梅の花、正しい鑑賞方法は組み合わせて詠まれる折々の景物との「ハーモニーを感じる」ことが肝要となります。
ただこのハーモニー、漫然と眺めているだけでは得られません。五感をフル活用して感じとるのです!

まずは「雪」とのハーモニー。
ここで必要なのは豊かな「視覚」です。
334「梅花 それとも見えず 久方の あまぎる雪の なべて降れれば」(よみ人しらず)
337「雪ふれば 木ごとに 花ぞ咲きにける いづれを梅と わきて折らまし」(紀友則)

晩冬に咲く梅は、このように眼前の雪と紛れて見分けがつかない様が歌われます。
言うまでもありませんが、和歌で詠まれる梅は紅梅ではなく「白梅」。
視覚に想像を加え、幻想的なしろがねの世界を感じ取ってください。

ちなみに337番は「木」ごと(「毎」)で「梅」になる、という文字遊びになっています。
「山」と「風」で「嵐」と同じ発想ですね。
※「吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ」(文屋康秀)

次は「鶯(うぐいす)」とのハーモニー。
ここで求められるのは一心な「聴覚」。
5「梅が枝に 来いるうぐひす 春かけて なけどもいまだ 雪はふりつつ」(よみ人知らず)
6「春たてば 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うぐひすぞなく」(素性法師)
13「花の香を 風のたよりに たぐへてぞ 鶯さそふ しるべにはやる」(紀友則)

梅の枝で鶯が鳴く、これはとりもなおさず春の到来を意味します。
平安歌人たちはこの初音を待ちわび、ひもねす聴き耳を立てていました。
この期待感、訪れの歓喜が歌に特別な抒情を加えるのです。

ちなみに「梅に鶯」はことわざや、花札の絵柄にもなった抜群の組み合わせです。
→関連記事「梅と鶯のアヤシイ関係

最後に「春の夜」とのハーモニー。
これは少々難易度が高いですよ、必要なのは鋭い「嗅覚」です。
40「月夜には それとも見えず 梅花 香をたづねてぞ 知るべかりける」(凡河内躬恒)
41「春の夜の 闇はあやなし 梅花 色こそ見えね 香やはかくるる」(凡河内躬恒)
46「梅が香を 袖にうつして とどめてば 春はすぐとも かたみならまし」(よみ人知らず)

月光に紛れ白梅の花は見えなくとも、芳香がその姿を知らせてくれる。
嗅覚を澄ませれば、香りだけでも十分堪能できる、それが梅の花なのです。

ちなみに新古今和歌集にはこんな梅歌が詠まれています。
新40「大空は 梅の匂いに 霞みつつ 曇りも果てぬ 春の夜の月」(藤原定家)
新44「梅の花 匂いをうつす 袖のうへに 軒もる月の 影ぞあらそふ」(藤原定家)

もはや五感だけでは通用しない、イメージの極致というような幻想的な世界。
ここまでの象徴歌は、桜ではほとんど見ることができません。
→関連記事「定家vsマラルメ 世紀を超えた対決! 象徴歌の魅力に迫る

春の花の座を桜に奪われ、一見地味に思われがちな梅の花。
でも五感をフル活用すれば、桜以上の華やかさを見ることができるのです。

(書き手:内田かつひろ)


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