突然ですが、『風立ちぬ』という映画、ご存知でしょうか?
2013年に公開された宮崎駿監督の作品です。

最近の映画は詳しくないという方、では
『風と共に去りぬ』はいかがですか?
スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)が主人公の歴史的名作ですね。

と、映画の話をしたいわけではありません。
この2つのタイトルに共通項がありますよね。
そう「風」!
ではありません。。

語尾の「ぬ」です。

さて本題です。
『風立ちぬ』というタイトルを、よもや“風が立たなかった”と理解していませんか?
これでは飛行機が飛びません(涙
風が“立った”が正解です!

もしも間違って理解していたら…
それはこの「ぬ」を、、、
【打消】の助動詞『ず』の連体形「ぬ」と勘違いしてしまっているのです!

しかし、間違えるのも仕方ありません。
同じ質問を小学生にしたら、正解するのは難しいでしょう。
なぜならこの『ぬ』が、もはや古語であり、口語ではまさに死語といえる
【完了】の助動詞『ぬ』の終止形だからです!!

まあ、そんなこと知ってるよ、という方が大半だと思うのですが、和歌を鑑賞していて意外にこの『ぬ』の判別に迷うことがあります。
しかも【打消】と【完了】では訳した内容が真逆になるのためいろいろと厄介です。
例えば以下、「源氏物語」中の贈答歌(藤壺から源氏へ)をご覧下さい。

「袖ぬるる露のゆかりと思ふにも なおうとまれぬ大和撫子」(藤壺)
現代風に訳すと、
「忍んで思うあなた(源氏)の所縁と思っても、やはり疎んでしまう大和撫子の花」という感じです。
ちなみに「大和撫子」は、源氏との禁断の恋(藤壺は源氏の親父、つまり桐壺帝の妻)の末、誕生した若宮(冷泉帝)の暗喩で、内容的に源氏物語の中でも最重要の和歌です。

ではこの和歌の『ぬ』を【打消】としてみましょう。
すると「疎まれない」となるので意味が全く異なってしまい、大罪を犯したはずの藤壺が、全く反省していないような印象になってしまいますよね。
恐るべし『ぬ』!

このように、『ぬ』は細心の注意を払って判別しなければなりません。
ではその手順です。

まずは『ぬ』の“直後”を見ましょう。
「体言」(名詞)だったら一発で【打消】の『ぬ』です。

ただ先ほどの源氏物語の和歌のように、『ぬ』の直後が“大和撫子”と名詞にも関わらず【完了】であるケースがあります。(和歌は散文と違って、文の終止が分かりにくいですね)

それでは次に『ぬ』の直前を見ましょう。
直前の語の活用形が未然形の場合、【打消】の『ぬ』、連用形の場合、【完了】の『ぬ』です。

ですから、「風立ちぬ」の『ぬ』は直前が「立ち」と連用形なので【完了】なのです。
これが「立た」と未然形だったら、【打消】の『ぬ』です。
※「立つ」はタ行四段活用(た・ち・つ・つ・て・て)です

学校で古文を教えてもらったあの頃…、活用形を覚えることなんて無駄にしか思えませんでした。
しかしこうして古典に興味を持つと、もっとしっかりやっておけばとつくづく反省です…

さあ、これであなたも『ぬ』を秒殺!

※と、言いたいところですが、未然形と連用形が同じ語っていうのがあります(活用の種類が上一二、下一二段活用など)。じゃ、どこで判別するすりゃいいの? となりますが、これはもはや文脈から判断するしかありません。
また、『ぬ』の上に「係助詞(ぞ・なむ・や・か)」がある場合は、係り結びの法則で【打消】「ず」の連体形『ぬ』です。
秒殺への道のりは険しいかもしれません。。。

(書き手:内田かつひろ)

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