枕詞は5文字の常套句で、修飾する語とされる語のペアが決まっているのが特徴です。
「ひさかたの」とくれば「光」と続くのが分かりやすい例ですね。

ちなみに枕詞自体は口語訳しません。つまり歌意の上ではなくても支障がないのです。
と、ここで疑問が。
和歌は31文字で構成されますが、貴重な文字数を犠牲にしてなぜ意味のない語を詠むのでしょう?

それは枕詞が文字数以上の効果を持っているからです。
例えば「世の中」と単に言うより「うつせみの世の中」と言った方が、なんだか意味深で重厚さを感じますよね?
このように受け手のイメージの想起を促すのが枕詞です。

この記事の音声配信「第四回 和歌の基本その1、枕詞を知る☆」を
Youtubeで聴く
iTunes Podcastで聴く

実はこの枕詞、現代でも多用されています。
どこで?
それは広告のコピーです!
「こだわりの逸品」、「上質の空間」、「伝統の技」、「自然豊かな味」…

何か言ってるようで何も言っていない、まさにマジックワード!
手軽で便利な枕詞ですが、和歌もキャッチコピーも安易に使うのは避けたほうが無難です。

代表的な枕詞と歌例

あさぢふの 小野 「あさちふの 小野の篠原 しのぶとも 人しるらめや いふ人なしに」(よみ人しらず)
あしひきの 山、峰、木の間 「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」(柿本人麿)
あづさゆみ 張る(春)、引く、射る 「あづさゆみ 春たちしより 年月の 射るかごとくも おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
あらたまの 年、月、日、春(新春) 「あらたまの 年のおわりに なるごとに 雪も我が身も ふりまさりつつ」(在原元方)
あをによし 奈良 「あおによし 奈良の都は 咲く花の におうがごとく いま盛りなり」(小野老)
うつせみの 世、身、命、人 「うつせみの 世にもにたるか 花ざくら 咲くと見しまに かつ散りにけり」(よみ人しらず)
うばたまの 黒、夜、闇、月、夢 「いとせめて 恋しき時は うばたまの 夜の衣を 返してぞ着る」(小野小町)
からころも 着る、裁つ、袖 「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」(在原業平)
くれたけの 節(世、夜) 「世にふれば 事のはしげき くれ竹の うきふしごとに 鶯ぞなく」(よみ人しらず)
しののめの 明るく、ほがら 「しののめの ほがらほがら とあけゆけば おのがきぬぎぬ なるぞかなしき」(よみ人しらず)
しろたえの 衣、袖、袂、雪、雲、浪 「春日野の 若菜摘にや しろたえの 袖振り映えて 人のゆくらむ」(紀貫之 )
たまのをの 絶ゆ、継ぐ、乱る、長し、短し 「下にのみ 恋ふればくるし たまのをの 絶えて乱れむ 人なとがめそ」(紀友則 )
たらちねの 母、親 「たらちねの 親のまもりと あひそふる 心ばかりは せきなとどめそ」(小野千古母)
ちはやふる 神、神社 「ちはやふる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」(在原業平)
なつくさの 深し、繁し、野、刈る 「かれはてむ のちをはしらで 夏草の 深くも人の おもほゆるかな」(凡河内躬恒)
ひさかたの 天、空、光、雨、月、雲 「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ」(紀友則)
やくもたつ 出雲 「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」(須佐之男命)
わかくさの 妻、夫、新、若 「春日野は けふはなやきそ わか草の つまもこもれり 我もこもれり」(よみ人しらず)

※枕詞は古今和歌集では50種弱、万葉集ではなんと500種以上あると言われています。

(書き手:内田かつひろ)

「和歌の入門教室 一覧」

 

平成和歌所から本が出ました。その名も「百人一首の歌人列伝」!
百人一首は歌ではなく「歌人を楽しむ」ものです。厳選した百人一首二十歌人の面白エピソードと代表歌をぜひ知ってください。
これを読めば「はるか昔にいた正体不明のオジサン」だった歌人たちが、グッと身近に感じられることでしょう。
そして本書を読み終わった後、あらためて百人一首を一番から眺めてみてください。
王朝の歴史絵巻が紐解かれ、つまらなかったあの百首歌たちが息吹を宿し、断然おもしろく感じられるはずです。

【目次】
・権中納言定家(藤原定家) 「怒れる天才サラリーマン」
・鎌倉右大臣(源実朝) 「甘えん坊将軍、鎌倉の海に吠える」
・在原業平朝臣(在原業平) 「愛され続けるプレイボーイ」
・和泉式部 「恋にまっすぐな平安ジェンヌ」
・紀貫之 「雑草が咲かせた大輪の花」
・凡河内躬恒 「麗しき二番手の真価」
・西行法師 「出家はつらいよ、フーテンの歌人」
・小野小町 「日本的、恋愛観のルーツ」
・源俊頼朝臣 「閉塞感をぶち壊せ! 孤独なチャレンジャー」
・式子内親王 「色と光を自在に操る印象派の女王」
#コラムその1 百人一首とは「王朝の栄枯盛衰物語」である!
・後鳥羽院 「お前のものは俺のもの、中世のジャイアン」
・菅家(菅原道真) 「悲劇の唇が吹く イン・ア・サイレント・ウェイ」
・崇徳院 「ここではないどこかへ」
・清少納言 「元祖! 意識高い系OLの可憐なる日常」
・柿本人麻呂 「みんなの憧れ、聖☆歌人」
・権中納言敦忠(藤原敦忠) 「禁断と破滅、平安のロミオとジュリエット」
・中納言家持(大伴家持) 「流れるままに。家持たぬ家持の万葉オシャンティー」
・後京極摂政前太政大臣(九条良経) 「天才貴公子が奏でるロンリネス」
・伊勢 「女貫之の冷たい仮面」
・能因法師 「元祖旅の歌人のノー、インドア宣言! 」
・皇太后宮大夫俊成(藤原俊成) 「和歌界のゴッドファーザー」
#コラムその2 百人一首は「ジジイのための歌集」である!

わくわく和歌ワークショップ はじめての古今伝授と連歌会

平成和歌所では、誰でも歌を楽しめる「あさぎいろ連歌会(Word Association Game)」を行っています。日本語の「ことばあそび」を存分に楽しみましょう。

和歌マニア♪ 日本文化の王道をあそび倒す! ラジオ 和歌マニア♪

古典和歌を爆笑エンターテイメントとしてトコトン遊び倒していく番組です。 ニンマリ笑って、けっこうタメになる! 和歌DJウッチーこと「内田かつひろ」と英語講師「ろっこ(rocco)」の鋭い突っ込みでお送りします。

Youtubeで聴く iTunes Podcastで聴く
「写真歌会 あさぎいろ」
あなたも和歌・短歌を詠んでみませんか? 平安歌人になりきって「和歌」と四季折々の情景(写真)をご披露いただけます。