古今和歌集は日本文化のバイブル!

古今和歌集は醍醐天皇の勅命により、紀貫之、紀友則、凡河内躬恒、壬生忠岑によって編纂された最初の勅撰和歌集。
ここに収められた1100首の心・姿は日本文化の規範となり、今に至るまで影響を与え続けています。
文学、書画、芸事など狭義の日本文化はもちろん、日常生活における季節感はては恋愛観においても、私たち日本人はすべからく古今和歌集で紡がれた美意識の下に生きています。

古今和歌集の特徴

古今和歌集の特徴は大きく二つあります。

一つは「部立て」。
部立とはいわゆる歌のカテゴリーで、古今和歌集は以下20の部立で構成されています。
「春(上下)、夏、秋(上下)、冬、賀、離別、羈旅、物名、恋(一~五)、哀傷、雑(上下)、雑体、大歌所御歌」

誕生、旅立ち、恋愛、老い、死。古今和歌集の部立は人生の縮図といえましょう。
特筆すべきは「四季(春夏秋冬)」と「恋」、これら二つで歌集の半数以上(702首)を占めるほど関心が高く、これはそのまま日本文化の二大テーマとなりました。

よく「日本の特徴は?」という質問に、「四季があること」などと答える人がいますが、四季がある国なんていくらでもあります。でもそう捉えている人は多い、なぜか?
それは日本文化が、古今和歌集で築かれた四季への愛着と美意識を前提に成り立っているからです。
→関連記事「和歌の入門教室 四季の景物一覧表

また、いわゆる「奥ゆかさ」などに日本人の特徴を見る人もいるでしょう。これは古今和歌集の「恋歌」で紡がれた価値観に由来します。
互いに求めて得られる充足の感情を「愛」だとすれば、求めても決して得られない希求の感情が「恋」。
忍ぶ女に、待つ男。すれ違い続ける男と女は結ばれることなく、ただ夢に希望を託すばかり。
この受容的、忍従的な恋の抒情を「美」、別の言葉で「あはれ」として打ち立てたのが古今和歌集なのです。
→関連記事「5分でわかる恋歌の全て ~古今和歌集 恋歌残酷物語(総集編)~

古今和歌集のもう一つの特徴が、歌の「配列」です。
実例として、「春」から数首見てみましょう。
1「年のうちに 春はきにけり ひととせを 去年とやいはむ 今年とやいはむ」(在原元方)
2「袖ひぢて むすびし水の 凍れるを 春立つけふの 風やとくらむ」(紀貫之)
3「春霞 たてるやいづこ みよしのの 吉野の山に 雪はふりつつ」(よみ人しらす)

年が明け、春風が吹き、霞の中雪が降る…

次いで「恋」。
469「ほととぎす なくやさ月の 菖蒲草 あやめもしらぬ 恋もするかな」(よみ人しらす)
470「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに あへすけぬへし」(素性法師)
471「吉野河 いは浪たかく 行く水の はやくぞ人を 思ひそめてし」(紀貫之)

まだ噂でしか知らない人、恋に気づき、思い悩む日々が始まる…

このように古今和歌集では、歌と歌が互いに寄り添いながらゆっくりと変化していきます。
とどのつまり選者達は、四季や恋の「移ろい」それ自体に美を見い出したのです。

絶えなく変化する森羅万象、それを留めようとする永遠に叶わぬ希求。
このギャップによって生じる葛藤、虚無、滑稽そして絶望こそが古今和歌集が描く美の本質です。

紫式部の「源氏物語」、松尾芭蕉の「猿蓑」、尾崎紅葉の「金色夜叉」、三島由紀夫の「金閣寺」。
これら代表的な文学作品を挙げるまでもなく、古今和歌集の美学は日本文化共通の美学であることがお分かり頂けたでしょう。そしてそれは今の私たちにも息づいていることも。
まさに日本文化のバイブル!

紀貫之は古今和歌集の「仮名序」にこう記しました。
「たとひ時移り 事去り 楽しび哀しびゆきかふとも この歌の文字あるをや(略)歌の様をも知り この心を得たらむ人は 大空の月を見るがごとくにいにしへを仰ぎて 今をこひざらめかも」
大空の月を見上げる様に昔の日本への思いを寄せれば、古今和歌集が出来た時代を恋慕わないことなんてない…
→関連記事「貫之様にインタビューしてみた ~古今和歌集 仮名序妄訳~

時代は移ろえど、私たち日本人は歌によって繋がっている。
日本の美意識の源泉、古今和歌集を知らないなんて「もったいない」としか言いようがありません。

さあ、一緒に古今和歌集のヒミツを探りましょう!
→ワークショップ「はじめての古今伝授と連歌会

古今和歌集が後世の文化に与えた影響

impact

前段のように、日本文化のほとんどは古今和歌集の影響下にあるといえます。
つまり我々は日本人であるかぎり、古今和歌集を源流とする美意識の流れの中に生きているのです。

昨今クールジャパンなどと日本文化を囃し立てる風潮が高まっていますが、表層だけを切り取ることに終始し、根本を知ろうとする意識はほとんど見られません。
日本文化を本気で楽しもうと思ったら、源流である古今和歌集に立ち返るのは必然なのです。

古今和歌集は決して遠い存在ではありません。
気づかないだけで、我々の近くに寄り添っているのです。

それに気づけば、いつもの辟易とした日本文化が新鮮に映ることはもちろん、道端の花や月といった身近な風景も必ず違って見えるでしょう。

古今和歌集はあなたの価値観いや、人生をも変える可能性を秘めているのです!

(書き手:内田かつひろ)


 
「四季を味わうルールブック」~古今和歌集で知る日本文化の基本~

「日本は四季が素晴らしい! 」なんて言葉をよく聞きます。
ではその素晴らしい四季、みなさん堪能していますか?
おそらく大半の方は、春の「お花見」、秋の「紅葉狩り」を楽しむ程度に終始しているかと思います。
しかし本来、日本の四季はもっと多様でもっと深く味わえるものなのです。
それで満足しているなんて、私としては「もったいない」としか言いようがありません。
みなさんが日本の四季を十分に味わえていないのには理由があります。
それは四季ひいては日本文化を鑑賞するための「ルールを知らない」のです。
そして他ならぬこのルールブックこそが「古今和歌集」なのです。

本書では古今和歌集の四季(春夏秋冬)歌に焦点を絞り、分かりやすく解説しています。
これをご覧いただき、日本の四季を堪能するための「基本ルール」を身に付けていただければ幸いです。


 
書籍版「百人一首の歌人列伝」

平成和歌所から本が出ました。その名も「百人一首の歌人列伝」!
百人一首は歌ではなく「歌人を楽しむ」ものです。厳選した百人一首二十歌人の面白エピソードと代表歌をぜひ知ってください。
これを読めば「はるか昔にいた正体不明のオジサン」だった歌人たちが、グッと身近に感じられることでしょう。
そして本書を読み終わった後、あらためて百人一首を一番から眺めてみてください。
王朝の歴史絵巻が紐解かれ、つまらなかったあの百首歌たちが息吹を宿し、断然おもしろく感じられるはずです。


わくわく和歌ワークショップ
 
はじめての古今伝授と連歌会

平成和歌所では、誰でも歌を楽しめる「あさぎいろ連歌会(Word Association Game)」を行っています。日本語の「ことばあそび」を存分に楽しみましょう。