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俊成卿女はその名のとおり藤原俊成の娘です。俊成の女といったって彼女ではありません、念のため。
ただ娘は娘でも実の父は藤原盛頼、母は俊成の娘八条院三条なので養女ということになります。父盛頼がある事件(鹿ヶ谷の変)で罰せられ失脚、母三条と離婚したため、祖父である俊成に預けられたのです。ちなみに藤原定家は叔父であり兄であります。ややこしいですね。

祖父であり父である俊成御大に鍛えられたのか、俊成卿女の和歌の腕前はメキメキと上がります。
それは鴨長明の歌論「無明抄」で、「今の御代には、俊成卿女と聞こゆる人、宮内卿、この二人ぞ昔にも恥じぬ上手共成りける…」と称えられるほどです。

ところでこの俊成卿女と宮内卿の二人、和歌界隈では昔からしばしば比較されてきました。オジサン世界に突如咲いたうら若き花二輪といったかんじで、当時から目立つ存在だったのでしょう。
ちなみに新古今和歌集には宮内卿の歌は15首、俊成卿女の歌が29首採られていますから、歌数だけでは俊成卿女の方に軍配があがります。
話の脱線次いでにもう一つ、俊成卿女と宮内卿は和歌のオールタイムベスト「百人一首」に入っていません。当時の評価も高く、俊成卿女に至っては選者である定家の身内にもかかわらず、です。色々と勘ぐってしまいますね。
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さて、俊成卿女の歌の特徴は一言、
「女子力」です。

恋歌はもちろん、四季歌を詠んでも恋の色香がムンムン漂っているのです。
俊成卿女の歌を聞いて、振り返らない男がいたら野暮ってもんですよ。

ただ実生活ではそのムンムン女子力も通用しなかったのか?
俊成卿女は源通親の息子、通具と結婚するのですが、通具が後に新妻を迎えてからは寵愛を失い半ば追い出されてしまうのです。

いや、むしろ彼女のムンムンの源泉は両親や自らの離婚の経験にあるのかもしれません。
それは俊成卿女の歌を鑑賞すればおのずと感じられます。

俊成卿女の十首

一「風かよふ 寝覚めの袖の 花の香に 香る枕の 春の夜の夢」(俊成卿女)
爽やかな春の目覚めが、「香る枕」で一気に妖艶なシーンに変わります。その匂いは…どう考えたって愛しい男の匂いでしょう。

二「恨みずや うき世を花の 厭いひつつ 誘ふ風あらばと 思ひけるをば」(俊成卿女)
恨まずにいられるか! と俊成卿女に言われると、単なる落花の話には思えません。

三「あくがれて 寝ぬ夜の塵の 積もるまで 月に払はぬ 床のさむしろ」(俊成卿女)
寝床の塵が積もるまで、月を待っている。この月は訪れを待ち望む愛しい男の暗示ですね。

四「あだに散る 露の枕に ふしわびて 鶉鳴くなり とこの山風」(俊成卿女)
「鶉鳴くなり」は祖父であり父である、いや歌の師匠である俊成を彷彿とさせます。御子左家らしい難解な歌です。
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五「とふ人も あらじ吹きそふ 秋は来て 木の葉に埋む 宿の道しは」(俊成卿女)
愛しい男の訪れはなく、我が家への道は落ち葉に埋もれてしまった! 秋部の歌ですが、完全に恋歌ですね。

六「下萌えに 思い消えなむ 煙りだに 跡なき雲の 果てぞ悲しき」(俊成卿女)
ひたすら忍んだ末に跡形もなく消えてしまう恋。こんな空しい恋、私はごめんです。

七「面影の かすめる月ぞ 宿りける 春やむかしの 袖の涙に」(俊成卿女)
愛しい彼の面影がほのかに宿る月、昔と変わらぬ私の袖の涙に…って、定家も驚きのぶっとんだ歌です。
実はこの歌、本歌があるのです。
「月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして」
これを知らないと、なんのこっちゃ分かりません。
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八「ふりにけり 時雨は袖に 秋かけて いひしばかりを 待つとせしまに」(俊成卿女)
季節を春に時雨を春雨にしたら完全に小野小町ですね。
恋歌におけるこの徹底的な「待つ女」スタイル。俊成卿女は小野小町の正当な伝承者といえます。
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九「通ひこし 宿の道芝 枯れがれに 跡なき霜の むすぼほれつつ」(俊成卿女)
跡なき霜とは、男の訪れがないことの暗示。霜が結ぶように、気持ちも落ち込んでゆく。
恋歌の名手は分かりやすい恋心なんぞ決して歌いません。

十「夢かとよ 見し面影も 契りしも 忘れずながら うつつならねば」(俊成卿女)
結局は全て夢。なんとも儚く空しい恋歌なのでしょうか。

本来的に和歌の恋歌は一切の幸福を受け入れない残酷な物語。俊成卿女の歌はそれを徹底的に磨き上げたものです。
真の女子力とは孤独を受け入れてこそ得られるのでしょう。
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(書き手:内田かつひろ)

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