春が行き、夏が来る。
一見当たり前のことのようですが、これはあくまでも暦における名目上の変化に過ぎません。

季節は移ろえど、人の心はそう簡単に切り替えられないものです。
一度あれに出会ってしまってはね…
何の話かって?
「桜」です!

古今和歌集の晩春、そこには「藤」や「山吹」の姿もあります。
しかし、存在感を示すのはこのタイミングでも「桜」なのです。

128「なきとむる 花しなけれは うぐひすも はては物うく なりぬべらなり」(紀貫之)
129「花散れる 水のまにまに とめくれば 山には春も なくなりにけり」(清原深養父)
これらの歌で分かるように、桜花はとうに散ってなくなっています。
「花」がない。これはイコール「春」もないということなのです、平安歌人にとって。

130「惜しめども とどまらなくに 春霞 返る道にし 立ちぬと思へば」(在原元方)
131「声たえず 鳴けやうぐひす 一年に 再びとだに 来べき春かは」(藤原興風)
132「とどむべき 物とはなしに はかなくも 散る花ことに たぐふ心か」(凡河内躬恒)
ああ無残!
いくら惜し留めども、その声は届きません。

新古今和歌集になると、春との惜別が明確に意識されて「春暮れる」という言葉になります。

新157「初瀬山 うつろふ花に 春暮れて まがひし雲ぞ 峰に残れる」(藤原良経)
新168「木のもとの 住かもいまは 荒れぬべし 春し暮れなば 誰かとびこむ」(大僧正行尊)
新171「いその神 ふるのわさ田を 打ちかへし 恨みかねたる 春の暮れかな」(俊成女)

春は暮れども花への執着心は決して尽ません。
だって一年間待ちわびてようやく出会えたんですからね。

私から平安歌人へ言えるのはこれだけです。
「気持ち切り替えてこ~♪」

で、むかえた夏。

古今集の夏は、春の余韻を感じさせる間もなく「ほととぎす」が鳴きだし季節を占拠していますが、
→関連記事「夏を独占! ほととぎすの魅力

新古今の夏では、多様な情景が詠まれています。
その代表が「夏衣」。

新175「春すぎて 夏きにけらし しろたへの 衣ほすてふ 天の香久山」(持統天皇)
百人一首にも採られた歌ですね。
「夏衣」つまり「衣替え」で季節の変化を感じるというのは、現代の感覚と同じです。

でもこの「夏衣」少し様子が変です…
新176「惜しめども 止まらぬ春も あるものを いはぬにきたる 夏衣かな」(素性法師)
新177「散りはてて 花の陰なき 木のもとに たつことやすき 夏衣かな」(前大僧正慈円)
新178「夏衣 着ていくかにか なりぬらむ 残れる花は 今日も散りつつ」(源道済)

「夏」といいつつ、未だに「春(桜)」の面影を引きづっている!
女々しいというか、なんというか、、まったく気持ちの切り替えが出来ていません。
心の夏はいつ来るのでしょうね。

やはりアイツに、新しい季節を告げてもらうしかありません。
鳴け、ほととぎすよ!
140「いつのまに 五月来ぬらむ あしひきの 山ほととぎす 今ぞ鳴くなる」(よみ人しらず)

(書き手:内田かつひろ)


 
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