「古今伝授」をご存知でしょうか?
その名のとおり、古今和歌集の内容・解釈を師から弟子へと伝えることです。
東常縁から連歌師宗祇に伝えられたことで一躍知られる存在となりました。

鎌倉時代初期、藤原定家要する御子左家は「歌の家」として確固たる地位を確立しました。やがて定家の孫の代になり、歌の名家は二条、京極、冷泉の三家に分裂しますが、古今伝授はこのうち、主流であった二条家(二条流)に伝わったものだといいます。

この古今伝授、今となっては古今集の解釈書など腐るほどありますが、和歌がまだハイソサエティのイケてるカルチャーであった時代には、それはそれは尊い秘伝として扱われていました。その凄さが分かるエピソードが「田辺城の戦い」です。

天下分け目の関ヶ原、その目前となる1600年8月、西軍は細川幽斎(東軍)が籠城する田辺城に攻め入ります。
迎え撃つ細川の軍勢が数百人にであったのに対し、西軍は1万5千人。敵うべくもなくあっという間に田辺城は落城寸前、キリシタンで有名な細川ガラシャもここで命を落とします。
しかし、最終的には東西引き分けという結末。なぜか?

それは古今伝授の断絶を恐れたからです。

攻め入られた東軍の細川幽斎、彼は当時著名な歌人として皇族に多くの信奉者を抱えていました。西軍の圧倒的な攻撃に対し、師幽斎の討ち死と古今伝授の断絶を恐れたその皇族らは、勅命として両軍に講話を命じたのです。

つまり古今伝授とはそれほどのものだったのです。
となると、やはり気になりますよねぇ、その中身…

古今伝授を調べると、事あるごとに「三木三鳥」という言葉が出てきます。
そしてこの「三木三鳥」こそが秘伝中の秘伝であると!

今回は特別に、その秘伝をこっそりご紹介しましょう。
まずは「三木」です。

■三木その1「をがたまの木」
『をがたまの木』は、モクレン科の常緑木だそうです。
それが詠まれた歌がこちら。
431「み吉野の 吉野の滝に 浮かび出づる 泡をか玉の 消ゆと見つらむ」(紀友則)

このままでは分かりませんね。まずは下句をひらがなにしてみましょう、
『あわをかたまの きゆとみつらむ』。分かりました?
句中に『をかたまのき』という語が隠れていましたね、このような文字遊びを「物名」といいます。

■三木その2「めどに削り花」
『めどに削り花』は「蓍萩(めど)に削り花」や「妻戸(めど)に削り花」といった解釈がなされています。
445「花の木に あらさらめとも 咲きにけり ふりにしこのみ なるときもがな」(文屋康秀)

『花の木にあらざらめども』で分かるように、「削り花」とはなんと造花のことなんですね。

■三木その3「かはな草」
『かはな草』は川に生える水草の一種だと言われています。
449「うばたまの 夢になにかは 慰さまむ うつつにだにも あかぬ心は」(清原深養父)

『ゆめになにかは なくさまむ』、ここに隠れていました。上と同様に物名歌ですね。

さて、続いて「三鳥」いきましょう。

■三鳥その1「百千鳥(ももちどり)」
『百千』とあるとおり沢山の鳥ということで、特定の鳥ではないようです。
それが詠まれた歌はこちら。
28「百千鳥 さへづる春は 物ごとに あらたまれども 我ぞふり行く」(よみ人しらす)

■三鳥その2「呼子(よぶこ)鳥」
『人を呼ぶような声』ということで、カッコウなどを指すようです。
29「をちこちの 立つ木も知らぬ 山なかに おぼつかなくも 呼ぶ子鳥かな」(よみ人しらず)

■三鳥その3「稲おほせ鳥」
『秋の田んぼにいる鳥』というだけで正体不明、だそうです。
208「わが門に 稲おほせ鳥の 鳴くなへに けさ吹く風に 雁は来にけり」(よみ人しらす)
306「山田もる 秋のかり庵に おく露は 稲おほせ鳥の 涙なりけり」(忠峯)

さて、古来から秘伝とされてきた「三木三鳥」をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
私の感想ですが…

「なんじゃこりゃ!!」です。

「をがたまの木」や「稲おほせ鳥」なんて聞いたともありませんし、
「めどに削り花」は花(生花)でもありません。
こんなもん教えてもらったところで使いようがありませんよ。

実際「稲おほせ鳥(2首)」を除き、それぞれが古今集歌にたった1首しか登場しませんし、
三木にいたってはすべて物名で、なんとかひねり出している感じじゃないですか。
もしこの秘伝が有料だったら、「金返せっ!」って感じです。きっとこの不満は昔の人だって同じだったと思いますよ!

しかし一方、「すごい」と感銘を受ける点もあります。

順当な和歌の「三木三鳥」を挙げるならば、
三木は「梅」「桜」「紅葉」、三鳥は「鶯」「ほととぎす」「雁」となりそうですが、
あえてそうせず、レア中のレアで誰も聞いたことがないような景物をそれに選んだ。

なんだか謎めいて、「古今伝授」の秘伝たる価値がぐっと高まってるような気がしません?
つまり今で言うところの「ブランディング戦略」としては、大成功していると思うのです。

明けてびっくり玉手箱。
秘伝は秘伝だから秘伝なのですね。きっと。

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(書き手:内田かつひろ)


 
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