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前回、「万葉集」「古今和歌集」「新古今和歌集」の歌風、スタイルの違いを「ザ・ビートルズ」のアルバムで例えてみました
→関連記事「ザ・ビートルズで知る万葉集、古今和歌集、新古今和歌集の違い

ただ、まだまだ抽象的であったことは否めません。
ここはやはり具体的な歌で、三大集のスタイルの違いを見たいと思います。
とうことで、時節を先取りして「七夕の歌」を比較してみましょう。

まずは「万葉集」です。
万葉集は謎の多く残る歌集です。
編纂を命じた人物も分かっておらず、聖武天皇勅撰説や大伴家持の私選説もあったりします。
成立は西暦750年頃と言われ、少し前(といっても2~30年前)日本最古の歴史書「古事記」「日本書記」が編纂されていますから、日本という国家の基礎づくりに合わせて作られたことが分かります。
ただ、まだまだ中国文化の影響は大きく、万葉集の歌にもその傾向が大きく見て取れます。

2000「天の川 安の渡りに 舟浮けて 秋立つ待つと 妹に告げこそ」
#船を浮かべて君を待っていると、彼女(織女)に伝えておくれ

2007「ひさかたの 天つしるしと 水無し川 隔てて置きし 神代し恨めし」
#水のない天の川で私たちを隔てるという神代の決まりが恨めしい

2016「ま日(け)長く 恋ふる心ゆ 秋風に 妹が音聞こゆ 紐解き行かな」
#長く待ちわびたが、秋風に乗ってついて織女の声が聞こえたぜ~。さあ、紐をほどいてで行くぜ!

2022「相見らく 飽き足らねども いなのめの 明けさりにけり 舟出せむ妻」
#もっと長く逢っていたいけれども夜が明けてしまった。もう帰らなければならん(涙…

このように、中国伝来の七夕伝説のストーリーを忠実に、牽牛、織女になりきって詠んだ歌が多いです。
そして我(男)は妹(女)にまっすぐな恋心を表しています。前回お話しした「益荒男ぶり」ですね。
注目は2016「紐解き行かな」です。紐を解くつまり、服を脱いで素っ裸で行っちゃるぜ! ってな感じでしょうか。
このような露骨な表現は、古今和歌集などには決してみられません。

ちなみに万葉集の第10巻秋雑歌は全242首あり、そのなんと98首が七夕の歌です。
七夕伝説への関心が異様に高かったことが伺えます。

次は「古今和歌集」。
醍醐天皇によって905年に編纂されました。
このサイトで色々説明していますので、よろしければ詳細は以下をご覧ください。
→関連記事「古今和歌集とは

173「秋風の 吹きにし日より 久方の 天の河原に たたぬ日はなし」(よみ人しらず)
#立秋の日から、天の川に風が立たない日はない

177「天の川 浅瀬しら浪 たどりつつ 渡りはてねば あけぞしにける」(紀友則)
#天の川の浅瀬を知らなかったので、渡ることが出来なかったら夜が明けちゃったよ~

181「今宵こむ 人にはあはじ 七夕の ひさしきほどに 待ちもこそすれ」(素性法師)
#今夜来る人には逢わない、だって織女のように長く待つようになるのはやだからね

このように古今和歌集の時代になると七夕伝説は消化しきっていて、素直に詠むというより「とんち」を効かせた歌が主流になります。つまり「技巧的」であり「理知的」であるのです。
また173では「秋風」に半ば強引に「天の川」が歌われていますが、これは七夕の話より古今和歌集のルール(四季の配列の妙技)を優先した結果です。

ちなみに古今和歌集になると、秋上80首のうち七夕の歌は僅かに10首見えるのみです。
すでに中国文化への憧れは薄れていたのでしょう。

最後に「新古今和歌集」です。
新古今和歌集は後鳥羽院によって13世紀初頭に編纂されました。
時代は鎌倉時代ですが、平安文化が最後の大輪を咲かせた時代です。
→関連記事「後鳥羽院 ~お前のものは俺のもの、中世のジャイアン~

316「袖ひぢて 我が手にむすぶ 水のおもに 天つ星合の 空をみるかな」(長能)
#私がすくった水に、天の二つの星が見えるよ

321「眺がむれば 衣手涼し ひさかたの 天の河原の 秋の夕暮れ」(式子内親王)
#眺めていると服の袖が涼しい、天の川の秋の夕暮れよ

327「七夕は 今や分かるる 天の川は 川霧たちて 千鳥なくなり」(紀貫之)
#七夕の星は今別れるのだろうか? 天の川に霧が立って千鳥が鳴いている

もはや天才的です。美しい象徴詩にため息しかでません。
そこに牽牛や織女の姿は全く見えませんが、本歌や天の川、七夕という言葉から想起するイメージを背景に、現実を超越した幻想的な情景を描いています。これが新古今和歌集が「絵画的」といわれるゆえんです。
→関連記事「定家vsマラルメ 世紀を超えた対決! 象徴歌の魅力に迫る

ちなみに327の作者である紀貫之はもちろん古今和歌集時代の歌人ですが、新古今和歌集に採られる際には、新古今風の歌風が採られています。

いかがでしょう。
数首だけでも三大集のスタイルが全く違うことが分かり頂けたと思います。
ただこれはあくまでも一つの傾向に過ぎません。
それぞれの歌集がまだまだ色んな魅力を持っています。

和歌の道、まだまだ奥深いです。

(書き手:内田かつひろ)

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