「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第十回 香川景樹の歌

景樹の歌集「桂園一枝」は、従来例のなかったまでに批評の多かった歌集です。当時は出版の手数の多く費用のかかる時代のことで、公表しようとすると板行にしなくてはなりませんが、これはとても容易なことではありませんでした。それにも...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第九回 香川景樹による賀茂真淵の批判

香川景樹の歌論で重要なのはやはり、賀茂真淵の「新学」を攻撃した「新学異見」でしょう、これは文化八年、彼が四十四歳の時のものでした。他には天保三年、六十五歳に著した「古今集正義総論」、內山眞弓が記録した「歌学提要」、松波遊...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第八回 香川景樹の「調(しらべ)論」

定家以来の新古今風をいまだに尊ぶ京都の堂上歌壇、それに対抗する形で、万葉集を掲げて江戸から蜂起した賀茂真淵、さらには堂上歌壇と真淵の双方を批判して、まったく新しい歌論を立てた小沢露案。これまで近世(江戸時代)の和歌史をざ...

【百人一首の物語】四十六番「由良の門を渡る舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな」(曽禰好忠)

四十六番「由良の門を渡る舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな」(曽禰好忠) 「ギャップ萌え」はわりとあることですよね。たとえば人前では辛く当たるのに、二人きりになると甘えてくる恋人とか、ツンデレですね。ではこんなギャッ...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第七回 小澤蘆庵の「ただごと歌」

小澤盧庵が唱える歌は、「ただごと歌」というものです。「ただごと歌」という言葉は「古今和歌集」の仮名序に見えて、著者の紀貫之は、「中国の詩には六義の風体があるが、わが国の歌にも同じく六種の体がある」と説明し、「ただごと」と...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第六回 京都歌壇と小澤蘆庵

真淵の事業は江戸においてなされ、門流は諸方に散り、和歌の上では、橘千蔭、村田春海などが、やはり江戸において活躍しました。当時の文化の中心はもちろん江戸でしたし、しかもそこには新興の元気と自由がありました。新風をおこす上で...

【百人一首の物語】四十五番「あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな」(謙徳公)

四十五番「あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな」(謙徳公)    「謙徳公」というのはいわゆる諡号です。貴人が死後、生前の行いを尊んで贈られた名前ですから、よほどのエリートだと思いましたが、なるほど...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第五回 賀茂真淵と万葉集

方便とみた万葉集が目的となってしまったということは、言いかえると万葉集のうちに彼自身を見出したということです。では真淵のみた万葉集の和歌はどういうのであったか。彼は晩年に「歌意考」という歌論を発表しています。これは彼の歌...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第四回 賀茂真淵と古学の勃興

江戸時代の和歌革新に働いた人は多くいるでしょうが、それらの人々を代表する働きをした人は二人、すなわちひとりは「賀茂真淵」、ひとりは「香川景樹」です。この二人の仕事はいかにも際立っていて異論を挟む余地はないものでしょう。 ...

【百人一首の物語】四十四番「逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし」(中納言朝忠)

四十四番「逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし」(中納言朝忠) 朝忠は名のとおり“中納言”ということでかなりのお偉方。父は二十五番、三条右大臣定方であるので、なるほどこの世は血筋こそがものをいうとい...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第三回 和歌革新の契機

公家の手のうちのものとなって、今まさに滅びてしまおうとしていた和歌は、江戸時代に甦ります。それは誰あろう、武士という新階級の手によるものでした。 甦ったというのは和歌に新しい解釈を加え、新しい標準を立てて、これを新しい意...

【百人一首の物語】四十三番「逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり」(権中納言敦忠)

四十三番「逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり」(権中納言敦忠) 平安時代にホストがいたら、間違いなく彼がナンバーワンです。光源氏? 昔男こと在原業平? いえ違います、藤原敦忠です。 敦忠はかの時平の三男...

「和歌史の断崖を埋める、近世(江戸時代)和歌の本当」第二回 古今伝授という発明

定家の子孫は連綿として続くには続きましたが、何百年となく精神力の萎縮した状態でのみ生きてきたので、これはという人は出ませんでした。たまにはやや優れた人はあったようですが、祖先には比ぶべくもない程度の人でした。それらの人は...

「和歌史の断崖を埋める! 近世(江戸時代)和歌の本当」第一回 和歌の惨状

和歌というと万葉集の成った奈良時代から貴族文化華やかかりし平安時代、ちょっと足をつっこんで鎌倉時代のものばかりが語られますが、和歌史を俯瞰すれば江戸時代こそ際やかなる特色をもった時代であったことがわかります。 江戸時代と...